短編A

□折り鶴
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縁側に浴衣姿で正座する貴男は
背筋の伸びた美しい姿勢で
白い指で器用に折り鶴を折る。
たおやかという言葉が似合う
見目麗しきその姿。
嗚呼、その濡れた瞳は誰を想うの。
目尻から一筋そっと頬を伝う涙に
僕の目は釘付けになる。

「篠原…。」
さらりと黒髪が揺れ漆黒の眼が僕を写す。貴男の想い人はもしかしてこの僕なのですか…。
さぁ、遠慮せずその先を早く聞かせて下さい。
可愛らしいその声で。
「しの…」「ぶぇーっくしょいっ!」
山崎さんの口は確かに動いていたのに、全然聞こえなかったよ。仕事にも役立つだろうから読唇術でも覚えようか。
僕の背後で書庫整理をする吉村が邪魔。
なんでこのタイミングでオヤジみたいなくしゃみ?
一世一代の告白だったらどうしてくれるんだよ。
「すみません、聞こえませんでした。もう一度言って下さい。」
「あ…あのね、
またもや、吉村がズビズビと鼻をかむ音が重なって山崎さんの声はかき消された。
「もう、いいや。」
ああっ、そこで諦めないで下さいっ。
吉村のヤツわざとなのかっ!?
恋敵がこんなに身近にも居るというのか。こうなったら自らアピールを…。

山崎さんに背後から近づいて背中から包み込むように手を握る。
「貴男の黒曜石のような瞳を曇らせるのは誰なのでしょう。涙の訳を聞かせていただけませんか。」
吉村の方角から鼻息のような音が聞こえたのは無視。
山崎さんは俯いて小さく肩をふるわせたまま何も答えてはくれなかった。
照れているのかな。
案外、奥手な御仁のようだ。
やはりあなたのような純情な方が副長のものだなんて嘘なんですよね。
こうなったら焦らず、ゆっくり攻略していかせていただきますよ。

「ところで、さっき話してた潜入時の伝達方法ですがね。それにしませんか?」
また吉村が邪魔を…。
「ああ、何も無いときは白い鶴を落とすとか、そんな感じ?」
山崎さんはスルッと僕の腕から抜けて吉村の隣に座り直した。
「あからさまじゃなくていいと思うんですが。どうです?」
「いいかも。篠原は鶴折れる?」
そのくらい朝飯前です。
「任せて下さい。」
「吉村は?」
「後で教えて下さい。」
提案したやつが出来ないだなんて笑っちまうな。
「じゃ、これで今日の打ち合わせはお終い。吉村は俺の部屋に来て。」
口を挟む暇もなく山崎さんは吉村を伴って監察部屋を出て行ってしまった。
僕ですら山崎さんの部屋に入れてもらったこと無いのに。
吉村に先を越された…。

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