短編A

□朝顔
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朝顔の花言葉は
儚い恋、短い恋。

まるで自分のようだと言うと
山崎は伏し目がちに微笑んだ。

朝顔の種子は「牽牛子」と言って生薬として利用されるんです。
粉末にして下剤や利尿剤としてね。
同時に毒にもなるんです。
不用意に食べると腹痛、下痢、嘔吐、血圧低下等を引き起こすんです。
最悪、死に結び付くかも知れませんね。

「だから、何だ?」
「ただの雑学ですよ。花言葉なんかより現実的な。」

その抑揚のない声がまるで俺を責めているようで、思わず組み伏せて唇を塞いだ。
抵抗しない唇に舌を差し入れて口腔に唾液を流し込みグチャグチャにかき混ぜる。

虚ろな眼とだらりと投げ出したままの身体がまるで人形を抱いているよう。
体温があって、呼吸をしているのに。
触れれば肉体の反応は隠せないのに、心という物がまるで感じられない。
揺さぶっても声もたてずにただ時が経過するのを待っているだけのよう。
抱く度に心の距離が離れていく気がするのは何故だろう。

「罪悪感なんて抱かないで下さいね。俺は一向に構わないんです。」
諦めたような顔で、許すと言うのか。
だけど俺の欲しいものは免罪符なんかじゃないんだ。

愛せないと言うならせめて強烈に憎んで。愛憎も表裏一体。
それだって、お前の頭を俺で一杯にするのに変わりないだろ。

朝顔のようにどんどん蔓を延ばして雁字搦めに絡み付いて離さない。
それとも最初から絡め取られているのは俺の心の方なのか。
それならば、いつしか山崎の中で憎しみという名の毒の種子が育ち俺に差し出されるだろうか。
それを食べて死ぬというのなら俺はそれで構わないのに。

「結束と平静…。」
ぼそりと呟くから、その漆黒の濡れた眼を覗き込む。
「朝顔の別の花言葉です。」
そういうものが良いと、消え入るような声で囁いて、山崎の手が宥めるように優しく俺の髪を梳いた。

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