短編A

□手紙
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「こんな所に手紙が挟まってた。」

沖田さんと一緒に資料室で過去の資料を探していたのだが何やら余計な物ばかり見つけやがるなぁ、と本日何度めかの溜め息。

真面目に探していたのは初めだけで退屈な資料探しにも何らかの愉しみを見出そうとするのだ。
今はすっかり当初の目的を忘れてしまったかのように、誰かの隠したエロ本だとか日記だとかを見つけては、はしゃいでいる。
たまに写真なんかも挟まったままだったりする。
嬉しそうに目をキラキラさせて子供みたい。

「あんたが必要だって言うから手伝ってるんでしょうに。本気で探す気がないんなら俺はもう仕事に戻りますよ。」

俺の小言なんか一向に介する様子もなく封筒から取り出した古びて変色した紙をガサガサと開く。

「山崎殿、俺は貴殿に惚れとります。今回の任務から無事に戻ったら褥をともにしていただきたく…」

「最低ですね。ヤる事しか考えてないんじゃ…って、あんた他人の手紙読んじゃいかんでしょ。」

見たこともない文面だなと、沖田さんに近付いて手元を覗き込む。

シワのついた紙片に丁寧な文字で書いたり消したりを繰り返した形跡。
色々悩みながらどうにか気持ちを言葉にしたいと奮闘したのだろう。
最低なんて言うべきでは無かったか。

文面はちょうど沖田さんの読んだところで途切れていた。
これは何時書かれたものだろう。
誰しも闘いと死は隣合わせだと意識はしているのだ。
最期の任務になる以前のものだろうか。
上手く書けたら渡すつもりだったのだろうか。

出身地が自分と同じだというその男とは馬が合うようで、よく話をした。
俺の事が好きだとは知らなかった。
口下手で、控え目に笑う横顔がいつも寂しそうだった。
一挙一動、書き文字の特徴ですら覚えている。
特別な存在では無かったけど、時に己の記憶力が恨めしい。

「あんたの部下だった下田っていう奴ですよ。」

下田は一番隊で最初の殉職者だった。
沖田さんだって忘れられやしないだろう。

「もう四年も経つんだな…。今じゃはっきりと顔も思い出せねーや。」

苦々しく呟く沖田さんはきっとそれを少し申し訳なく思っている。
人の記憶なんてそんなものだから仕方ないよ。そうやって忘れることで悲しみも少しずつ薄れていくんだ。
だけど俺は覚えているから、そんな事は言えない。

「きっと全部覚えてるのもつらいんだろうな。俺はお前にそんな顔させたくねーから何が何でも帰ってくるさ。だから安心してずっと俺だけ見てろィ。他の事全部忘れちまう位頭ん中俺で一杯にしちまえ。」

この男は年下のくせに、何て恥ずかしい台詞を真顔で堂々と。
言われたこっちの方が照れちまう。

「どうでもいいから、早く探し物終わらせませんか。」

「へい、へい。」

不満そうに膨らます頬に、そっと口付けをして、直ぐに離れた。

沖田さんは俺の唇が触れた部分を暫く手で押さえて茫然としていたから、背中を向けてから思わず笑ってしまった。
 

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