リクエスト、その他

□医務室にて
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一週間の張り込みを終えた山崎は、経過報告をする為に副長室に向かう。
副長室は襖が開け放たれていて、机に向かって座る土方の姿が見えたので廊下に膝をついてその背中に向かって声を掛ける。

「失礼します。山崎退、只今戻りました」「ああ、ご苦労だった。」

土方は一度振り返って山崎が無事に帰還した姿を確かめると、机に向かい直して仕事を再開した。

「今の所、攘夷志士どもが訪れる気配は一向にありません。念の為あと数日間は部下に見張らせますが今回はシロと見ていいと思います。」
「そうか。」

いつもならここで終わりで山崎は部屋に戻って身体を休めたり残った仕事の片付けをしたりするのだが。
少したっても山崎の気配が一向に消えない気がするので、それを確かめるように土方は廊下の方を振り返る。
するとやはり山崎は膝をついたままの姿勢でそこにいて、土方を探るようにジッと見つめる双眸とまともに対峙した。

何の用かと土方が聞く前に、山崎がおずおずと口を開く。
「あの…副長。俺に何か言うべきことはありやせんか?」
いぶかしむような口調に土方は、はて何事があったかなと首を捻るが思い当たる節はない。

「交代に来た吉村に謝られたんです。俺では力不足でした本当にすみませんって、泣きそうな顔でした。一体何のことです?」

「吉村には聞いてないのか?」
その吉村が詳しくは副長に聞いてくれと言ったのだ。
吉村という名が出て、ようやく土方は思い出した。

数日前の幹部会議の事だ。
いつもは監察方からは筆頭である山崎が出席するのだが張り込みで不在だったので監察方の二番手である吉村が出席したのだ。

議題の一つが監察方の隊服について。
通常の業務に於いては監察という性質上目立つ事を良しとしないので、一般の隊服と同様のものが着用されている。
問題は通常業務外、主に医療関係の仕事時の服装についてである。

監察医としての業務と医務室の当番時に於いては衛生上、白衣の着用が好ましいという意見が以前からある。

斬られ傷の手当ての多い真選組での白衣着用は、返り血等で直ぐに赤く染まってしまって実用的ではないというのが監察方の総意だ。
それについての話し合いはとっくに終わったものだと山崎は思っていた。

蒸し返したのは土方だ。
素足に膝上丈の白衣をという最初の提案は流石に却下された。

「それでは医者でなくナース服です!しかもエロい方向のやつです。山崎筆頭不在時にこんな話がまかり通ってしまっては俺が山崎さんに顔向け出来ません。監察方としては断固拒否の方向で。無理に通すおつもりならば、ストライキです!」

監察にストライキを起こされてしまっては堪らない。
万が一、逃亡と追跡のプロである監察に逃げ出されでもしたら手の打ちようも無い。

吉村は吉村で顔を真っ赤にするほど必死でこれ以上ない程頑張って抵抗したのだ。
結局、最後の方は土方に押し切られ白衣というところで妥協したのだろうが。

「あんた、俺の不在時狙いましたね。」
なんて卑怯なんだ…。
筆頭の自分がいれば、そんな話一蹴してやったのに。

以前からゴスロリの着物やらメイド服やら訳の分からない衣装を持ってきては山崎に着せようと頑張っていたのを上手いこと断ってきたのだが。

どうして土方が自分にそんな酔狂な格好をさせたいのか山崎には理解できない。
そんな嫌がらせに走るほど自分のことが気に入らないのかとすら思っている。

今回はきっと山崎に着せたいが為に、とうとう監察方までをも巻き込んでしまった。
土方の最初の主張から普通の白衣に代わったことには心底ほっとするが、私情でそんな事を決めるだなんて非道すぎる。

しかし山崎は軽く抗議はしても流石に土方に対してそこまで強くは言えない。

百歩譲って白衣は良いとして、何で眼鏡着用?
そんなに眼鏡が良いってんなら万事屋の新八君でも観察して来いっ!

自室に戻った山崎は机の上に置かれた支給品の白衣と眼鏡を見て溜め息を吐いた。
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