リクエスト、その他
□高天原へようこそ
1ページ/4ページ
女性にしては少し背の高い女たちが連れ立ってホストクラブ高天原の門をくぐる。
背が高いとはいってもモデル等を生業とする女性にならよくいるだろう位の。
モデルを引き合いに出すのも、其処にいる三人がそれぞれすらっとした体躯と美しい容姿に恵まれていたからだ。
入り口を取り囲む派手なスーツや着物姿の煌びやかに着飾った男たちが其方に向かって一斉に頭を下げる。
「高天原へようこそ!今宵もスペシャルな時間をお楽しみ下さい。」
「本日もご来店ありがとうございます。ご指名は?」
一番歳の若そうな可愛らしい容姿の女がにっこりと微笑む。
「ザッキーでお願いしますわ。」
その声は見かけに似合わず案外低い。
「かしこまりました。ザッキー!」
声を掛けられた男は三人組の女の方を見て一瞬困惑の表情を浮かべるも直ぐに、はにかむような笑顔になった。
新人のその男はホストにしては少々地味な容姿ではあるが、その笑顔が母性本能をくすぐるとなかなかの人気らしい。
「お吉さん、お篠さん、本日もご指名ありがとうございます。こちらの可愛らしいお嬢様はお初ですね。」
「総子と申します。ザッキー、宜しくね」
ザッキーが手を差し出すと総子は、そっと自分の手を重ねる。
ザッキーのエスコートで誘導されたのは店の奥の死角の多そうな目立たない場所だった。
そして総子を先に席に座らせてお吉とお篠を自分の両脇に肩を抱くように座らせる。
それからザッキーは、甘えるようにお篠の肩にもたれかかり耳許で囁いた。
「おい、ざけんなよ、篠原。なんで沖田さんまで連れて来ちゃってんだよ。」
極上の笑顔を浮かべてはいるのにその声にかなりの怒気が含まれている。
「す…すみません。山崎さんに緊急の用事があるって言うからぁ…。」
ザッキー=山崎は監察の部下である篠原の足を見えないテーブル下でグリグリと踏みつける。
「ほらぁ、お篠、ダメだっていったじゃな〜い。」
此方も監察の部下である吉村がシナをつくりながらウフフと笑う。
「ごめんなさぁぁい。」
篠原はペロッと舌を出して山崎にもたれ掛かる。
流石、監察の部下二人の女装は、いつ見ても完璧である。
男だとよく知る山崎にとっては甘えられてもゾゾッと鳥肌が立つだけなのだが。
しかし…それ以上に沖田の女装姿は可愛らしかった。
ただ何もせずに普通に座っているだけなのに華があり、それなりに美しい監察組が霞んで見える。
「それで、沖田さんは何の用なんです?女装までしちゃって。」
「これは…吉村が山崎に会いに行くんだったら女装しろと…。」
沖田さ〜ん、騙されてるよおぉぉぉ。
別に男子禁制とか無いからねー。
どうせ吉村の事だから、沖田さんの女装姿が見たかっただけなんて落ちだからね〜。
けれどこの場を平和に収めるために山崎は黙っている事にした。
「おい、篠原。席代われ。」
沖田は少々強引に山崎と篠原の間に割って入り、山崎の手をしっかりと握る。
「ちょっと山崎成分補給させろィ。」
ひょっとして沖田さん、俺の事が…。
山崎は握られた手をジッと見る。
「土方のクソヤローに自慢してやろう。山崎がなかなか帰って来ねーってヤキモキしてたからなァ。」
土方に対する単なる嫌がらせのようだ。
「ちょ…ちょっとぉ、ここに潜入してることは副長には内緒ですよ!」
監察の部下二人は定時連絡の為に時々やってくるのだが、土方にはどこに潜入するかは言っていない。
その場の状況で潜入先が次々と代わることもあるので土方が行き先を知らないのは何も今回に限った事ではないのだ。
「もちろんでィ。」
攘夷志士を弟に持つ女が足繁く高天原に通っていると聞いた山崎は、一月程前からホストとしてここに潜入していた。
漸く女と仲良くなり同伴したり外で二人きりで食事をするところまでは持ち込んだのだ。
ここで邪魔される訳にはいかない。
果たして沖田の
もちろんでィ、という台詞は。
もちろん土方の耳に入れるという意味だったのかも知れない。