リクエスト、その他

□逢魔が時
1ページ/3ページ


人々も家路へと急ぐ頃、
太陽はだいぶ西に沈み掛け
空も風景も朱に染まる。

黄昏時の町を土方と山崎は歩く。
巡回時間もそろそろ終わりだ。
大通りから少し狭い路地に入って暫く歩くと、間もなく屯所に着く。

しかし路地に入った瞬間、それまでたわいもない話をしてヘラヘラと笑っていた山崎が急に表情を変えた。

「前方電柱の陰に二人、左前方の茂みに二人、右前方屋根に一人といったところでしょう。後方はちょっと数が多いようです」

山崎のこういう所が凄いと土方はいつも感心する。
後方の敵の気配は先程から土方も感じていたが普通に会話をしながら、身を潜める相手の人数まで正確に探り当てるのだから。

敵は此方を足止めして、後方から叩くつもりなのだろう。
隊服を着て歩いていると、時々こういう事がある。
大抵は突発的に攘夷志士に遭遇して起こることなのだが、今回のように巡回コースを狙われる事が無いわけではないのだ。

「俺が屋根の上の奴を叩くうちに副長は前方の敵を蹴散らして先に行って下さい。それから屯所に連絡を。」

言うが早いが山崎の足が地面を蹴り、身体が軽快に屋根の上に跳ね上がった。
同時に山崎の手から放たれたクナイを屋根の上の影が避ける。
抜刀した山崎が刀を振り下ろすと、素早く体勢を立て直した敵が刀でそれを受け止めた。
静かな路地に鉄のぶつかり合う音がキィィーンと耳障りに響く。

土方もそれをただ見守っている訳にはいかなかった。
山崎が地面を蹴ったと同時に刀を抜き前方に走った。
そして山崎の言った通りに左右から二人ずつ現れた敵をあっさりと斬り捨てる。

屋根に上るような行動は自分の方が素早いということ。
その事も踏まえ、相手の力量を推し量った上で土方に複数の敵を任せようと判断したのだろう。

屋根の上では山崎がまだ敵と刀を交えている最中だった。

屯所に電話を入れ増援を頼むと、後方から間近に迫ってきた敵を待つために土方はその場に止まった。

土方のすぐ近くで山崎に斬られた敵が屋根の上からドサリと重い音を立てて落ちる。同時に土方の方を向いた山崎が大声で叫ぶ

「俺の言うとおり先に行って下さい!増援と合流してから戻って来て下さい!」

そうして屋根から飛び降りてきた山崎の着地しようとする足元を、追いついてきた敵の凶刃が狙う。

「山崎!」

間に合う距離ではない。
それでも土方は山崎に刀を向ける相手に斬りかかろうと走る。
その瞬間は、山崎を護ることしか考えていなかった。
己を狙う刃など気に留める余裕すらなくなっていた。
別の敵が振り下ろした刀が土方の左腕を掠め隊服を裂き袖口から血の筋が流れる。

山崎は着地する前に自分を狙ってきた敵の頭上から首を狙って斜めに刀を突き刺し、足元を狙ってきた刀を避け、刺した相手の肩に手を着いて身体を回転させると軽やかに着地した。

「何しとるんですか。俺を護ろうとして怪我してるんじゃ洒落にならんでしょ!」

山崎は土方を一瞥し、倒した敵の身体から刀を抜き、土方を護るように敵との間に立ちふさがる。

「こうなったら手加減は無理ですから。副長、後で文句は言わんで下さいね。」
 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ