幸せ探しの旅に出よう

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「サスケ君ですか?」

「…」


任務が終わり時間が空いてやることが無くなったオレは、行きつけの甘味処で団子を食べていた。

その時店から出てきた1人の女性。
「サスケ」と呼ぶあたり、どうやらオレを弟と間違えているようだ。


「…サスケは、オレの弟だ」

「あ…、すみません。私、勘違いしてしまって」

「…いや、」

「サスケ君のお兄さんということは、イタチさんですか?」

「ああ」

「いつもサスケ君からお話聞いてます。」

丁寧に会釈をして、笑顔をひとつ。
その笑顔に、何故か心臓がざわついた。


「初めまして。私、音無伊織と申します。」


名前を聞いて、思い当たる事が。
暗部の間でも噂になっていた、異世界から来たという1人の女。
四代目とナルトと一緒に住んでいるらしいが。


(…噂は本当だったのか)


「…うちはイタチだ」

「…」

「…」


初対面で、共通の話題もなく、ましてや口下手なオレでは、これ以上の会話があるはずもなく。


「…それでは私はこれで。休憩中にすみませんでした」

「…いや」


頭を下げて背を向ける彼女の姿を見えなくなるまで見つめる。

やけに速さを増す心臓。
自身でも初めて知る、この異様な心臓の速さに。

オレは気付かないふりをした。





ーーーーーーーーーー


「失礼します、四代目」


一向に少なくならない書類にげんなりし始めた頃。
カカシが休憩から戻ってきた。


「カカシ…。書類が終わらないんだけど…」

「四代目がサボっていたからです。ま、自業自得ってやつですね」


まるで他人事のように(実際は他人事だけど)言うカカシを薄情者!と言わんばかりのオーラをぶつけると、「何か?」と言わんばかりの目で返された。

カカシも手伝ってくれそうにない。
渋々筆を持ち直して、書きかけの書類に手をつければ、カカシの口から出た「はぁ…」という作られた溜め息。


「…そんな四代目に、お土産です」

「…?」


何を買ってきたくれたのか。
甘いものだったら嬉しいけど、カカシの事だ。
あまり期待しないでおこう。


「さ、入ってちょーだい。……大丈夫、迷惑なんかじゃないよ」


ドアの向こうで何やら話している様子。
首を傾げながら、その"お土産"を待っていると、部屋に入ってきた人物に、思わず持っている筆を落とした。


「し、失礼します、四代目様…。お仕事中に申し訳ありません」


控えめに入ってきたのは伊織ちゃん。
手に持っている袋を見る限り、買い物の帰りだろうか。


「近くを通ってるの見かけたんで、連れてきました。…やる気でました?」

「ん!ありがとう、カカシ」


さっきは酷いこと言ってごめんよ。
どうやらカカシはオレに最高のお土産を持ってきてくれたようだ。


「ま、座りなよ」

「す、すいません…」


カカシが用意した椅子に、遠慮がちに座る伊織ちゃん。
何だかソワソワと落ち着かない様子だ。

こうして伊織ちゃんときちんと顔を合わせるのは実に久しぶり。

嬉しくて自然と笑顔になってしまうけど、伊織ちゃんの顔は強張ったまま。


「どうしたの?」

「あ、あの…、迷惑に思ってませんか?お仕事中にお邪魔しちゃって…」


ここ最近、気付いた事がある。
それは伊織ちゃんが、オレに、いやオレ達に、一歩も二歩も引いているということ。

何かあることに「すみません」の言葉が一緒についてきて。
それは遠慮という言葉では表現出来ない。


伊織ちゃんとの間には完全に壁があり、俺はそこに踏み入る事を許可されてない。


「迷惑なんて思ってないよ。むしろ逆かな。伊織ちゃんの顔を見て疲れが吹っ飛んだよ」


ありがとうと言えば困ったような表情を見せる。
そんな顔をさせたい訳じゃないんだけど、どうやら今の伊織ちゃんには伝わらないらしい。


「…あの、最近はお仕事忙しいんですか?家にも帰らないので、ナルト君も心配しています」

「急ぎの書類があってね。どうしても終わらせないといけないんだ。…ナルトにも心配かけちゃったなぁ」

「……。四代目様…、これ」


伊織ちゃんが買い物袋から取り出した包み。
遠慮がちに机の上に置く。


「疲れたときは、甘いものって言いますから…。少しですけど、食べて下さい」

「いいの?」

「はい」


包みを開ければ5本の団子が綺麗に並べられていた。

疲れていることもあって、それが異常にオレを誘う。


「ありがとう、伊織ちゃん。そうだ、伊織ちゃんも一緒に食べよう!」

「…でも、」

「大丈夫、大丈夫」


断りを入れられる前に、少し強引に言葉を遮る。

そして逃げられないように、2人分のお茶を用意してセッティング。

はい、どうぞ、と団子を渡せば、それを受け取り、一口食べる。

…おいしい、そう頬を染めて言う伊織ちゃんを見て。


(…また、だ)


胸がむず痒くなる。

こんな気持ちになるのは、初めて。
いや、随分と前にもこんな気持ちになったときはある。


(……でも、いつだったかな)


この考えは、伊織ちゃんの声により中断された。


「そういえば、」

「?」

「先ほど、お団子を買いに行ったんですけど、イタチさんが居たんです」

「イタチ君が?」

「はい。恥ずかしながら、サスケ君と間違えてしまって…。でも兄弟だけあって、お二人はそっくりですね」


珍しく饒舌な伊織ちゃんにびっくりしながらも、話に耳を傾ける。

言葉を選びながら、だけど(恐らく)今日あったことを、紡いでくれて。
それが疲れている心身にゆっくりと癒やしをくれる。

この時間がずっと続いたら、幸せなんだろうな。
なんて、馬鹿な考えをしていた時。


「伊織、探したってばよ」

「ナルト君、すみません…」

「ごめんよ、オレが引き止めちゃったんだ」


どうやらナルトは買い物に出掛けっきりで帰ってこない伊織ちゃんを心配して探しに来たようだ。

ちょっと悪いことしちゃったかな、と思いながら、伊織ちゃんと2人で居られたことは嬉しかったりもする。


「四代目様。今日は帰れそうですか?」

「ん、終わらせるよ」

「それじゃあ、四代目様の好きなもの作って待ってますね。無理せずお仕事頑張って下さい」

「頑張れよ、父ちゃん」


ドアの前で律儀に頭を下げる伊織ちゃんと軽く手を挙げるだけのナルト。

伊織ちゃんの言葉にやる気をもらったのは言うまでもない。





君を想う、この気持ち
((音無、伊織…。何故こんなにも気になる…))

((伊織ちゃんのご飯が待ってる…。頑張らないと…!))










ーーーーーーーーーー
当初からイタチを出したくて、考えていました。
やっと出せたのはいいけど、あまり絡んでいない。
これからサスケと共にどんどん登場させていこうと思います。
 

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