幸せ探しの旅に出よう

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トントンとリズミカルな音でゆっくりと瞼を開ける。

昨日は遅くまで書類の片付けをしていたせいか、まだ頭がはっきりしない。
時計を見ればいつも起きる時間よりも、一時間近く遅い。

欠伸を漏らしながらリビングに行けば、そこには愛しい人の姿。


「おはよ、伊織ちゃん」

「わっ!ミナト様っ。おはようございます」


後ろから抱き締めれば、可愛い声をあげて目を丸くした。


「…起こしてくれればよかったのに」

「昨日遅くまでお仕事していたのを知っていますから。休みの日くらいはゆっくり休んで下さい」


この優しさが堪らなく嬉しくて、伊織ちゃんの首筋に顔を埋める。
擽ったそうにするも、嫌がらない伊織ちゃんに調子に乗ったオレは、そのままそこに唇を落とす。


「きゃっ…、ミナト様…!」


もっと声が聞きたい。
そう思ったけど今は朝だし、何より伊織ちゃんを怖がらせたくない。


「ごめんごめん。伊織ちゃんがあまりにも可愛かったから」

「そ、そんな事ないです」


耳まで真っ赤にしながら答える伊織ちゃんの頭を撫でて隣に立つ。


「一緒に作ろうか」


袖を捲って近くに置いてあった野菜を手に取れば、伊織ちゃんのストップがかかる。


「ミナト様は休んでて下さい。出来上がったら呼びますから」


オレの事を考えての言葉なんだろうけど。


「伊織ちゃんと少しでも居たいんだ。足手まといかもしれないけど、手伝わせてほしいな」

「……っ、は、はい」


恥ずかしいから口には出さないけれど、こんな些細な時間さえオレは幸せに感じている。

きっとそう遠くないであろう未来を、考えながら君の隣にいる、この時間を。






 















それはいつもと変わらない朝。


「ミナトさん、朝ですよ」

「ん、おはよう、伊織」

「おはようございます」


にこり微笑むその唇に、自分のそれを重ねる。


「朝ご飯、出来てますよ」

「ありがとう」


部屋を出て行った後ろ姿を見送って起き上がる。
カーテンを開ければ晴天が広がっていて。
朝日を浴びながら大きく背伸び。
そしてリビングに向かう。

しかし居るであろう愛しい人の姿はない。
気配を辿って行けば、彼女は椅子に上って何かをしていた。


「伊織っ!」

「きゃっ!」


思わず力任せにその体を自分の腕の中に閉じ込める。


「何、してるの…」

「あ、ごめんなさい。取りたい物があって」

「そうのはオレに言ってよ」

「はい…」

「もう伊織の体は、君一人のものじゃないんだからね」

「…はい」


両手をそっとお腹の上に乗せる。
しっかりと腕の中の存在を確認して安心する。


「あの、ミナトさん。そろそろ離して下さい」

「…やだ」

「んっ、くすぐったい、です」

「オレに心配させた罰だよ」


おでこから、目尻に頬、唇にキスをすれば擽ったそうに身を捩ってオレから逃れようとする。


「きょ、今日は、ナルト君とヒナタさんが来るんですから…!」

「来るのはお昼時の約束でしょ?まだ大丈夫だよ」

「ミ、ミナトさん」

「愛してるよ、伊織」

「狡い、です」

「伊織は言ってくれないの?」

「………愛してます、ミナトさん」




 

(旅はまだ始まったばかりだから)




 
 

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