企画など
□着地点はここでありますように
1ページ/1ページ
緊張で手にじわりと汗が滲む。
その緊張が伝わってしまったのか、隣に座っているミナト様がそっと手を重ねてきた。
優しく微笑んでくれるミナト様に、体温が上がったのが分かる。
目の前に座るナルト君は首を傾げてミナト様の発する言葉を待っている。
「名前ちゃんと付き合い始めたんだ。…もちろん結婚を前提に」
ナルトにはしっかりと自分の口から言わなくちゃいけない、とミナト様は言っていた。
私も先日退院してきて言うのは今しかないとミナト様に言われたのはさっきのこと。
色々不安はある。
ナルト君はとても優しい人で、物分かりの良い人だけど。
私がミナト様と付き合って、結婚するとなると、必然的に私はナルト君の母親になるわけで。
この事実をナルト君はどう思っているのだろう。
「知ってるってばよ、そんなこと」
「えっ」
「父ちゃんも名前も分かりやすいからな」
ナルト君にそう言われて思わず顔を見合う。
ミナト様の苦笑いに私も同じように返した。
ナルト君の反応を見るには、特に不満とかは無さそうだけど、本当に納得してくれたのだろうか。
私の不安は胸にこびりついたままだった。
「ナルト君、今日は任務ですか?」
「おう、そんな難しい任務じゃねぇから夕飯は一緒に食うってばよ」
「はい、分かりました。それじゃあ、」
「んじゃ、行ってくっから!」
気のせいだろうか。
何だかナルト君の様子がおかしいような気がする。
あからさまな感じではないけど、さっきみたいに途中で行ってしまったり。
よそよそしいように見える。
(…やっぱり)
普通に考えれば分かることだ。
1歳しか変わらない母親なんて有り得ないし、そもそもナルト君にとっての母親は私なんかじゃなく、クシナさんただ1人しかいない。
当たり前なのに、ミナト様と恋人同士になれた事に舞い上がって当たり前の事が考えられなかった。
「名前ちゃん、どうかした?」
いつの間にか近くに来ていたミナト様が、私の顔をのぞき込むようにして視界に飛び込んできた。
「い、いえ、何でもありません」
これは私だけの問題であって、ミナト様にまで心配をかけるわけにはいかない。
俯いていた顔を上げて、精一杯の笑顔を貼り付けた。
(今度ナルト君と2人きりで話そう…)
ナルト君はどう思うか分からないけど、私の気持ちは伝えたい。
しかし、そうは言ったものの。
「ナルト君…!」
「わりぃ、もう行くってばよ!」
「あ…、気をつけて下さいね」
「ナルト君、あの…」
「今、急いでんだ」
「あ、ごめんなさい…」
これは絶対に避けられている。
思えば一週間近くナルト君とまともに話をしていないかもしれない。
ミナト様と恋人同士になれて凄く幸せだけど、罰が当たったんだ。
ぶつけようのないこの悲しみを、私は唇を噛んで耐えることしか出来なかった。
今日はミナト様が急な会議が入ったらしく朝早く出て行き。
私はお休みでナルト君も任務はないらしい。
疲れているだろうし、いつ起きてくるかは分からないけど一応朝食を用意しておく。
「おはよー、名前」
「おはようございます、ナルト君」
「…あれ、父ちゃんは?」
「ミナト様なら急な会議で朝早く出て行かれました」
「ふーん…」
ミナト様がいない今なら話せるかもしれない。
ぎゅっと力無い拳を握って、ナルト君を見据える。
「「あのっ…!」」
絞り出すように発した言葉がナルト君のそれと重なり、思わず目を見開く。
少し見つめ合った後に「ナルト君先にどうぞ!」と言えば「オレは大した話じゃねえから、名前から言うってばよ」と譲ってくれたので、その言葉に甘える。
「あ、の…、ナルト君の本音を、聞かせて欲しいんです…」
「オレの、本音?」
「はい」
そう言えばナルト君は腕を組んで「うーん」とうなり声を上げた。
「オレの本音って何のことだ?」
「わ、私と、ミナト様の関係についてです。ナルト君が、良く思っていないことは分かってます。だから本当の事を言って下さい」
「ちょ、待つってばよ、名前!何でオレが父ちゃんと名前の幸せをよく思ってないって…」
落ち着け、とナルト君に頭を撫でられる。
それが心地よくて、数回ゆっくりと呼吸をすれば「大丈夫そうだな」とナルト君の手が離れた。
「この間から、ナルト君様子がおかしかったから…。1歳しか変わらない母親なんて変だし、そもそもナルト君の母親はクシナさんしかいないのに…」
目から熱いものが零れた。
拭いても拭いても止まらないそれを見られないように、私は言葉を続ける。
「それでも、私にとってナルト君は大切な家族だから、寂しいです…!」
こんな事で涙を流すなんて、そう思っても涙は止まらない。
それどころかさっきよりも勢いを増してしまった。
「すまねえってばよ!!!」
「?!」
「オレってばサイテーだ!名前がそんなに悩んでんのに気付いてやれなかった!」
「な、ナルト君、顔を、上げて下さい。悪いのは私ですから」
深く頭を下げるナルト君。
こんな場面じゃなければ、普段は見られないナルト君のつむじが目の前にある、なんて呑気な事を考えていたかも知れないけど。
今は頭を下げるナルト君を止めるのに必死だ。
「…こんなの言い訳みてーだけど、父ちゃんが…」
ナルト君がポツリと零した言葉の中に、ミナト様がいて、思わず「え?」と聞き返してしまった。
「いや、オレが名前が喋ってると父ちゃんすげーこっち見てるんだ」
「ミナト様が…?」
「おう。父ちゃん嫉妬深いからな…。それが怖くて名前に勘違いさせてるなんて知らなかったってばよ…」
「それじゃあ…私とミナト様の事…」
「名前と父ちゃんのことは本当に良かったと思ってる」
ナルト君に言われたことを頭の中で整理する。
つまりナルト君はミナト様が怖くて私を避けていただけで、認めないとかそう言う事じゃなかった、と。
ただ私が勝手に勘違いして、勝手に悲しんでいただけ。
「す、すみません、ナルト君!わ、私変な勘違いを…!変なこと沢山言ってしまって…!」
「…確かにオレの母ちゃんは1人しかいねぇ」
「…っ、」
「でも名前は大切な家族だ。それに名前とは親子じゃなくてキョーダイでいたいと思ってるってばよ」
「な、ナルト君…」
ヘヘヘ…、と少し赤く染まった頬を隠すように笑うナルト君に。
「あ、ありがとう、ございます…」
「な、泣くなってばよ!」
「すみません…。う、嬉しくて…」
止まったはずの涙が、今までの不安や悲しみが雫となって再び目から流れる。
ナルト君を困らせてしまうと分かっていても、私を大切な家族だと、姉弟だと言ってくれた言葉の破壊力は大きい。
「これからもよろしくな、名前」
「こ、此方こそ!よろしくお願いします!」
ナルト君の言葉に頭を深く下げてそう返せば頭上で笑い声が聞こえて。
ミナト様を感じさせるその笑顔の中には、確かにクシナさんの面影もある。
この人達の家族になれた私は本当に幸せ者なんだと、心から思ったのだった。
着地点はここでありますように
(何があっても変わらずそこに)
ーーーーーーーーーー
ろびん様、リクエストありがとうございました!
そして大変お待たせしました。
ナルトの反応ということでしたが、上手く書けているでしょうか。
やはりナルトは寛大な心と優しさを持っているので、ヒロインを認めるんじゃないかと思いこのような結果にさせていただきました。
ナルトとの絡みをガッツリ書けて楽しかったです。
企画参加ありがとうございました!