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□聖なる夜を召し上がれ
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街はクリスマス一色で染まっている。
眩いくらいのイルミネーション。
抱えきれないくらい大きなプレゼントを手にして喜ぶ子どもとそれを優しく見守る両親。
寒さを分け合うようにそっと寄り添う恋人達。
誰もがクリスマスを満喫している中。
私とミナトさんは2人っきりでミナトさんのマンションに居た。
言葉だけ聞けば、聞こえはいいけれど、実際は違う。
「…ゴホッ」
「大丈夫ですか、ミナトさん」
「…ん、平気…」
「タオル取り替えますね」
彼のおでこに乗せられている、すっかり冷たさを失ったタオルを取って、氷水が入った桶に入れる。
この時期に氷水に手を入れるのは辛いけどそんな事言ってられない。
「ありがとう…。ごめんね、瑠那。折角のクリスマスなのに…」
「ミナトさん…」
全然大丈夫、と言ったら嘘になる。
すっごく楽しみにしていたから。
でも苦しそうに眉間にシワを寄せながらも、申し訳なさそうに謝るミナトさんを見たら。
「大丈夫ですよ。それより早く風邪治して下さいね」
そんな言葉しか出なかった。
ここ一週間、クリスマスに休みを貰うため仕事に明け暮れていたミナトさん。
何の音沙汰もなく心配して訪ねてみれば、倒れていた。
「色々、準備…してたんだけどな…」
ポツリ話し始めたミナトさんに耳を傾ける。
「一緒に、夜景が綺麗な所で…食事、して…、大きなツリーとか、見たりして…。最後に、あの観覧車乗って…」
どれも私が口にしていた事だった。
「瑠那の喜ぶ顔が、見たかった」
自分はこんなに苦しんでいるのに、私の事ばかりで。
胸が締め付けられる。
ありがとうの気持ちも込めて、触れるだけのキスをすれば、ミナトさんの顔は益々赤く染まった。
「…、ダメだよ…。風邪、移る」
いつもは爽やかな笑顔で私のあたふたしている様を見ているミナトさんだけど。
これは所謂形勢逆転。
弱っているミナトさんも…。
「ダメって言わないで下さい…。もっとキス、したいです」
縋るように言えばミナトさんは目を丸くして、金魚のように口をパクパクさせ始めた。
こんなミナトさん見るの初めて。
初めて見る表情、そして少しだけ優位に立てたことが嬉しくて笑みがこぼれる。
「…からかってるでしょ」
「ふふ、そんな事ないですよ?」
さっきは触れるだけのキスしか出来なかったからキスしたいのは本当。
からかってなんか、いない。
「知らないから」
「きゃ、」
小さく呟いた言葉に耳を傾けようとしたら、突如腕を強く引かれてミナトさんの上に倒れ込む。
慌てて退けようとしたが、それはミナトさんの手によって阻まれた。
「本当に、風邪移ると思って我慢してたけど…、瑠那がそうならオレも我慢しなくていいって事だよね」
「え…、あ、の…」
「…瑠那」
ぐるりと視界が回って、さっきまで下にいたミナトさんが私を見下ろしている。
かすれた声で名前を呼ばれて、吐息が耳にかかり、体が反応した。
ギラギラと野獣のような目をしたミナトさんに危険を感じた私は。
「ミ、ミナトさん、横になってないと…!」
「…も、黙って」
「んぅ…!」
熱くて深いキスに、体がとろけてしまいそうになる。
角度を変えて、何度も何度も。
鼓膜を震わせる厭らしい水音が全てを麻痺させる。
(…もう、ダメ)
息が続かなくなって、ぎゅっとミナトさんの服を掴むと名残惜しそうに離れた唇。
「っ、は…、」
「…まだ、足りない」
「だ、め…。これ以上、したら…、熱上がっちゃいますよ」
「かまわないよ。それに汗をかけば…ね?」
首を傾げて言われても全く可愛くない。
むしろその仕草がこれから起きることの恐怖を語っている。
「風邪、移ったら…看病してくれますか?」
「ん、もちろん。だから、いただきます…」
召し上がれと返事をする代わりに、ミナトさんの首に手を回した。
聖なる夜を召し上がれ
(瑠那、愛してるよ…)
(私もです。…って、ミナトさん、体すごく熱いですよっ?)
(だ、大丈夫、だよ…。だから、続きを…)
(キャー!ミナトさん!死なないで下さい!)
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メリークリスマスです。
今回のネタは私の実体験をもとにしたものです。
見事にインフルエンザにかかり、魘されていました。
体調管理はきちんとしなくてはと痛いほど学んだクリスマスでした。
皆様も風邪にはお気をつけて下さい。
それではよいクリスマスを。