龍神演義

□最強と最凶(五)
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 暗闇の中から両腕が伸びだし、しっかりと体をつかまれる。
 両腕の持ち主は、しきりに何かを言っているが何と言っているのか聞き取れない。
 恐る恐る顔をあげて、持ち主を見ようとした瞬間だった。
 頭上から雨のように血が降り、そこには頭のない男が立っていた。

 目の前に広がる真っ赤な光景。

 返事が返ってこないとわかっていても、男のことを呼ばずにはいられなかった。

「父上!」

 伸ばした手は父には届かず、目の前には宿屋の天井が広がっていた

 ゆっくりと身を起こすと、脇腹に鈍痛がはしる。

「気がついた? まだ完全に傷口が塞がったわけじゃないからしばらくは安静だよ」

 志龍が心配そうに武龍を見つめていた。武龍は今にも泣き出しそうな表情の志龍にいつもの笑顔を向ける。

「俺はこのくらいじゃ死なないよ。人よりも体が頑丈にできているらしい」

 笑いながら志龍の群青色の髪を撫でる。

「志龍、ごめんな。厄介ごとが増えた。お前にはまだまだ心配かけることになりそうだ」

「どうせ止めたって聞かないでしょう? 僕は何をすればいいの?」

「今すぐシンをここへ連れてきてくれ」

 志龍は黙って頷き、部屋から出て行く。

 テムジンと部屋に残った武龍はため息をつき、項垂れ、はき捨てるようにつぶやく。

『気にくわない。俺の弱みにつけこんだ死に方をしやがって……』

『お前、大丈夫か? シンと冷静に話ができるのか?』

『……大丈夫だ』

 武龍が顔を上げ、拳を強く握り締める。

『四番目とやらを引きずり出して、俺に戦をけしかけたことを後悔させてやる』

 不敵な笑みを浮かべる武龍の眼差しは、手負いの獣のように鋭く、冷たかった。
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