龍神小話
□自慢の心上人
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玄武の里は学問が盛んな大都市である。
大陸の各地から学問を志す者が集い、街は昼夜を問わずにぎわっている。
街の中心部にある酒場は学者の憩いの場でもあり、人々の話し声でざわめきがやまない。
酒場の片隅ではこの里では見かけない男が独り、杯になみなみと葡萄の酒を注いで、なにやらぼんやりと手にしている少年の姿絵を見つめてため息をついていた。
「あぁ、殿下……一体どこへ……」
男はため息をつきながら杯を傾ける。
姿絵を見つめる男の瞳はどこかうっとりとしているようにも見えた。
青色の髪、赤い瞳は龍族のようにも見えるが、男には違う特徴があった。
背中にはえている羽、やや尖った耳。
酒場にいる人々は人ではない男の姿を遠巻きにみつめ、ひそひそとなにやら噂をしはじめた。
そんな人のざわめきを打ち消すかのように男は大きくため息をついた。
「殿下……私の殿下……」
男の持つ姿絵の中に描かれている少年、殿下は頭に羽根がついているという不思議ななりをしていた。
男と殿下との関係は一体どいうものなのか……
人間である酒場の客たちには計り知れないものだった。