フェイタン短編.1
□天使の微笑み
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今日は珍しい。
いつも暑苦しいくらい一緒にいるサヤカとフェイタンが、別行動してる。
天使の微笑み
蜘蛛の仕事があるため、仮宿のひとつに泊まっている俺たち。
今日はサヤカがマチと協力して夕飯を作ってくれた。
人数がけっこうなもんだから、大体はみんなバラバラに食事を済ます。
でもたまにサヤカが作るって言ってくれた日には、誰もが外食なんかせずに早めに戻ってご飯の時間を今か今かと待っている。
そう、サヤカの料理はとても美味しいから。
俺、サヤカ、フェイタン、フィンクス、マチ、シズクで夕飯を終える。
…しかし、食事中からしてなんか今日の2人はおかしい。
いつも隣に座る2人は食事中でも話をしたり、フェイタンがよそ見しているサヤカのおかずに香辛料を入れたりしてからかったりしてるんだけど…。
今日は必要最小限にしか話さず、目を合わそうともしなかった。
ケンカをしてるわけじゃなさそう?だけど。
なんだかサヤカの元気がない。
いつもよくしゃべって明るいサヤカの元気がないと、蜘蛛自体がシーンとなってしまう。
いや、もともとサヤカがいなかった頃はこんな感じで、そもそもみんな揃って食事自体が珍しかったし?
でも一度明るさを知ってからこうなると…葬式みたいだな、なんて。出たことないけど。
ほんとサヤカの存在って大きいなあって思うよ。
「俺洗うよ」
食器を運んで台所にいるサヤカに言う。
「えっ!いいよ、シャル疲れてるでしょ」
「平気だよ、今日待機組だったし、これくらい任せて」
遠慮するサヤカを押して洗い物を始める。
ほらね、やっぱりおかしい。
俺がサヤカの側に来てるのに、フェイタンが飛んで来ないなんて。
それに食器を運ぶのはいつもフェイタンが自主的にしてることなのに、今日はそれもせず、食事も喉を通らないみたいで少し残してどこかに行ってしまった。
サヤカの料理ならピーマンですらきれいに平らげるのにな。
「今日も美味しかったよ。やっぱりサヤカは料理上手いよね」
「そんなことないよ。シャルだって上手だよ」
そう言うサヤカは、がんばって笑顔を作っていた。
……痛いな。
辛い時にがんばって笑う君を見たら、なんか胸が、痛いよ。