フェイタン短編.1

□残さず食べてね?
1ページ/8ページ

蜘蛛メンバーでの食卓。
そこにはあってはならないものが並んでいた。










残さず食べてね?










盲点だった。
今までなぜ気がつかなかったのか。

サヤカは料理好きで、とても上手く、レパートリーも多い。

ならばいつかこのメニューも巡ってくるはずだと、考えればわかることだったのに。

予防線を張っていなかった。
先に嫌いなことを言っておけば良かった。


「ぶっ、ぶふっ!」


テーブルに並んでいる食事を深刻に見ているワタシを見て、フィンが吹き出す。

シャルナークにマチも、声を殺して笑っている。


ああ、ああ、そね。
お前らは知てるからな。
ワタシが『これ』をどれほど嫌いか。
さぞ面白いだろな、クソが。


「どうしたのフェイタン、世界の終わりみたいな顔して」


シズクも知てるはずだが。
あまりに物忘れがひどいから、ワタシが『これ』を嫌いなことも忘れてるようね。


…そう。

今ワタシの目の前に置かれているのは、ピーマンの肉詰め、である。

言わずもがな、嫌いなのは肉ではなく…。

この緑色をした、独特の臭いと、苦味のある野菜。

その名もピーマン。


「いただきまーす」


と全員が手を合わせて言い、料理に箸をつける。

いつもならワタシもここで食べ始めるところだが…。


無理すぎる。
なぜこんなものが食べ物なのか。
見ているだけでも嫌だ。
これを口に入れるだと?
あり得ない。
あり得てはならない。


「?あれ、フェイ、どーしたの?」

「エ…」


食事に箸をつけないワタシを見て、サヤカが聞いてきた。


「ご飯食べてないけど、具合でも悪い?」

「あ、い、いや…」


いつもワタシの隣に座っているサヤカが、不思議そうに首を傾げてこちらを見る。


「ぐ、ぐふふ」

「おいフィン、黙るね」


サヤカにピーマン嫌いなことを言っていなかった。

店で出たやつとか、他の奴が作った料理なら、「こんなもん食えるか」と突っぱねてやるが。

なにを隠そう、これはサヤカが作ったもの。

ワタシがピーマン嫌いで、しかしサヤカにキツくあたれないことを知っているメンバーは、ワタシの今の様子がそれはもう可笑しいらしい。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ