フェイタン短編.1
□片想い
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今まで自分が会ったことのない、見たことのない人だと思った。
こんな汚い場所で、砂まみれになって。
なのになぜ、あんなに心から楽しそうに笑えるのか。
ワタシの目は釘付けになった。
どんな高価な美術品を見ても、こんな風にはならなかったのに。
「あーっ!」
……ポン、ポン、
彼女が悲鳴をあげたかと思うと、ワタシの足元にサッカーボールが転がって来た。
「ごめんなさーい!」
心臓が跳ねた。
…今のは、ワタシに…言たか…?
ボールから目を離して前を見ると、遠くにいる彼女が、ワタシに向かって大きく手を降っていた。
これは球を取って投げてほしい、ということだろう。
そうわかったが…
体が硬直したように身動きができなかった。
彼女は首を傾げて、こちらに駆け寄って来た。
ハッとしたワタシは、やっと足元のボールを片手で広い上げた。
目の前に足を止めた彼女は、やはりワタシよりも目線が低く…
その大きく真っ黒な瞳は、濡れているようにキラキラ輝き、そこにはワタシが写っていた。
あまりにきれいな目に、自分が写ってはいけないような気がして、目を逸らしてボールを渡した。
…彼女はワタシを変だと思っているだろう。
無愛想で、感じの悪い奴だと…。
そう思ったのに。
「あのー、良かったら一緒に遊びませんか?」
…
…
耳を疑って逸らした視線を戻すと、彼女はまっすぐにこちらを見つめ、にっこりと笑っていた。
「いやあ、あの子たち元気すぎて、私だけだとちょっと!だから、もし暇だったら」
…アソブ?
…ワタシがか?子供タチト…
もちろんそんなことしたことはない。
しかし彼女が誘ってくれている。
こんな自分を。
意を決して足を一歩…踏み出そうとした、その時。
…ピリリッ
携帯が鳴り響いた。
着信を見ると、フィンからのメールで、団長の用事が終わったから早く集合しろ、という内容だった。
「あ、予定があるなら良いですからね」
そう言って彼女は背を向け、走り出した。
なにもできず、遠ざかる背中を見つめる。
…と、彼女は何か思い出したようにピタッと立ち止まり、くるりとワタシを振り返った。
「ボール拾ってくれて、ありがとうー!!」
片手を上げて満面の笑みで。
彼女はまた子供たちの中へ戻って行った。
「サヤカちゃんおそーい!」
「ごめんごめーん!」
彼女が戻ると、みんな笑った。
自分が行っても、彼女のようにはできなかっただろう。
いや…
他の人間にもできない。
彼女以外に、あんなことはできない。
荒んだこの空気を払拭して、光り輝く太陽のように、眩しく照らして周りにいる者を明るく元気にするーーー
そんなことは彼女にしかできない。
ワタシは彼女をもっと見つめていたい気持ちを殺し、その場を後にした。
…