フェイタン短編.1

□そのままの自分を。
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近くのデパートに寄り、買い物をすることにした。


「懐かしいなあ、私こういうとこで前に働いてたんだよー」

「ジャポンね」

「そうそ、ジャポンのデパートもなかなかキレイなんだよ。ここも良いよね、受付嬢さんも美人ばかりだし」


昔は出身地のジャポンで受付嬢をしていたらしいサヤカ。

受付を指差すのでチラリと見たが。


…フン、みんな不細工ばかりね。
可愛いも美人もサヤカのためにある言葉よ。


…気恥ずかしくてさすがにここまで本人に言えないが。


「人多いねえ」


平日でも人気の店はなかなか混み合っている。

背の高い人間がたくさんおり、前が見えにくい。


…こんなとこにも背が低い弊害が。


「…どこからこんな人間湧くか」

「仕方ないよー、ヨークシン都会だし。あっ、殺ったらダメだからねー」

「……よくわかたな」

「その目見たらわかるよ!」


鬱陶しいしサヤカがゆっくり買い物できないしでゴミを一掃してやろうかと思ったが。

サヤカは仕事以外では殺しはしないし、盗みもしない。

もう蜘蛛になってだいぶ経つが、いつまでも変わらない。
良い意味で。


「あ、これ可愛いー」


ちょこちょこと動いて、気になる靴を2足持って来た。


片方は赤でリボンがついたバレーシューズのようなペタンコな靴。

もう片方はピンクで花のついたヒールのある靴。


……これは。


「どっちが良いかなあ?履いてみよーっと」

「…」

「どっちもサイズぴったりだあ、Sあって良かったー」

「サヤカそれ…」

「ん?」

「…何cmヒールあるか?」

「え?うーん、5、6cmかなあ?」


5…

それを履いたらつまり、ワタシとすっかり並んでしまう。

最悪6の場合、少し抜かされてしまう。


「……赤のが良いね」

「そう?でもピンクも可愛いんだけどなあ」


ああ、本当はどちらも似合っている。

どちらかと言わず両方買えば良いし、いっそこの店ごと買い占めるか奪い盗ってやりたい。

しかしワタシにとってその数cmが一大事だ。


「ピンクはたくさんあるね、だから…たまには違うのも良いね」

「そっかあー。そうだね、いつもつい似たやつばかり買っちゃうし。よーし、じゃあ赤にしよーっと、ありがとフェイ」


まさか自分の背を抜かされたら悲しいから…
などと格好悪いこと、口が裂けても言えまい。
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