フェイタン短編.1
□天使の微笑み
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「…フェイタンと、なにかあった?」
「…え?」
我慢できずに、聞く。
サヤカは俺が洗ったお皿を拭きながら目を伏せがちに答えた。
「…ううん、そんな大したことじゃないんだけど」
「サヤカが元気ないんだから、大したことだろ?」
「……」
しゅん、という擬音がピッタリ合うような今のサヤカ。
どうやら怒っているわけじゃなく、悲しんでいる、みたいだ。
「ケンカしたの?フェイタンになにかひどいことでも言われた?」
「え!ち、違う!」
「…ならどうして、そんな悲しそうなの?」
俺ってこんなおせっかいだったっけ?
「ごめん、ウザいよね。でもなんか、サヤカ辛そうなの見たら放っておけなくてさ」
「えっ、ウザくなんてないよ!…ありがとう、シャル優しいね」
優しいとはよく言われる。
女には特に。
でも、無償で優しくしたいと思うのは、サヤカにだけだ。
「…私ね、実はひとつお願いがあって、それをフェイに頼んだんだ」
「お願い?なにか聞いて良い?」
「……写真」
…写真??
「写真て、なんの?」
「フェイの…」
…ああ、フェイタンが好きだから、その写真が欲しくて?
「とゆうか、一緒に撮りたくて。今朝言ってみたんだけど…」
「断られたの?」
「断られたっていうか、嫌がられたっていうか…。なぜそんなのいるか?って言われて、なぜって言われてもなあって言葉に詰まっちゃって」
「それで、それから気まずいの?」
「うん…」
フェイタンならサヤカの頼みならなんでも聞くと思うのに。
なんでそんな嫌そうに言ったんだろ?
でも…
「なんでいきなり写真?なにか思いつくことがあったの?」
皿洗いを終えて手を拭きながら聞く。
「えっと、ね。私、育ったとこ壊滅しちゃったから。家や写真も、みんな焼けちゃって」
そう。サヤカの故郷はマフィアに壊滅させられて、思い出ごと消えてなくなった。
「それでね。顔が…」
「顔…?」
「うん、友達や家族の顔がね、わからなくなってきたの」
サヤカは顔を上げて、その大きな瞳でどこか遠くを見た。
「最初はあんなに覚えてたのに、だんだん薄れきて、もう、ほとんど思い出せないんだあ。あんなにずっと一緒にいたのに。人の記憶っていい加減なもんだよねぇ、あはは」
どうして、そんなことを、まるで楽しいことでも話すかのように、明るく語るんだろう。
「だからね、そう思った時に、今大切な人の写真が欲しいなって思ったんだ。一緒に映って、形に残したい、って思っちゃった」
ダメだったけど…てへへ
と笑うサヤカ。
…
…フェイタンのバカ野郎。
バカ野郎バカ野郎バカ野郎。
サヤカにこんな想われてるくせに、なに嫌な顔してんだよ。