フェイタン短編.1
□天使の微笑み
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そりゃあ俺たちは盗賊だ。
写真なんて形に残る物不要かも知れない。
変な奴に撮られて流出されたりしたら面倒だとも思う。
でも相手がサヤカなんだよ?それだけで良いじゃないか。
「サヤカ、それってフェイタンじゃなきゃ意味ない…よね?」
「??」
「もし、俺でも良かったら撮りたいけど…フェイタンじゃないから、やっぱいらない?」
首を傾げていたサヤカを窺い見ながら聞いた。
するとサヤカの目はさらに大きく見開かれた。
「ほ、ほんとに!?ほんとにシャル、一緒に写真撮ってくれるの?!」
予想外の反応に俺としたことが、驚いてしまう。
「いらなくなんかない!私、みんなの写真欲しかったの!みんなのこと大好きだから、だから嬉しい…ありがとう、シャル!ありがとう、ありがとう!」
サヤカは泣き出しそうなくらい喜びながら、満面の笑みでそう言った。
……いつからだろう。
サヤカを目で追うようになったのは。
この笑顔をもっと見たいと思ったのは。
最初はどこにでもいる可愛い子、そう思っただけだった。
なのに異質でありながらすんなりと蜘蛛に馴染み、蜘蛛の空気ですら明るくする彼女。
蜘蛛でありハンターであり、幾度となく人も殺しているサヤカ。
俺たちと同じ道にいる…はず。
なのに、サヤカはいつまでも変わらない。
純粋なままに生きている。
いつからか、なんて、覚えてないなーーー。
……
台所を出て、俺が仮宿で使っている部屋に行く。
ここは頻繁に使うわけじゃないから、なかなかに殺風景。
机の上にカメラをセットして写真を撮る。
サヤカが持っていたのはポラロイドカメラで、すぐに写真が出てくる。
「お、浮き出てきた」
「わあー、嬉しい!」
まさかのサヤカと2ショット。
こんなことできるなら、ずっとフェイタンと気まずくいて欲しいな、なんて。
あーあ、写真なんかで喜ぶなんて、俺中学生?
女には嫌というほどモテて経験も豊富な俺が…笑っちゃうな。
「なにしてるの2人とも?」
サヤカの声が廊下まで聞こえたのか、シズクが入ってきた。
「あ、し、シズク!」
「サヤカ、シズクにもお願いしたら?」
「あ、う、うん!え、えと…」
とっさに写真を隠して、断られるのが怖いのか、言うのが恥ずかしいのかもじもじするサヤカ。
子供みたいだ。可愛い。
「シズク、その、良かったら写真…一緒に映ってくれない、かな…?」
「写真?うん、良いよ」
「ほ、ほんと!?」
「うん。私もサヤカと撮りたい。そうだ、マチも誘って来ようか?」
「わあ〜…う、嬉しい…!よろしくです!」
サヤカの顔がパアッと明るくなる。
つまり、みんなサヤカのこと好きなんだよね。
少ししてシズクがマチを連れて戻って来た。
「マ、マチ、マチも映ってくれる??」
「写真?なんでまた…いや、良いんだけど…」
なんで?と言われてちょっと悲しそうな顔をしたサヤカを見てマチが慌てた。
「でも私、写真なんか撮らないから、その、どんな顔して良いかわからないけど、良いか?」
「良いよ!そんなの全然良い!一緒に映ってくれるだけで良いの!」
マチはサヤカの言葉に安心したようだった。
「シャル〜女衆だけで撮って撮ってー!」
「はいはい、じゃあ並んで」
カメラ係りになって女子組を撮る。
写真だけでこんなにはしゃぐサヤカを見ていると、俺も楽しくなった。