長編

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すっかり夜も更け静まり返っている中、極楽満月へと足を運んだ。



静かに扉を開けると、ダイニングに明かりがついている。


規則正しい寝息が静かに音を立てて愛おしい恋人が眠っていた。



「ただいま…。」



耳元で囁いてみるも起きる気配はなく、変わりにふんわりとした笑みを向けてくる。


パサリと彼に毛布を掛けて私も隣に座った。彼の前髪を撫でたり頬に優しく触れると気持ち良さそうに笑う。


つられて頬が緩んでいる自分がいるのがわかった。


普段使われない筋肉が痛む。皆…よくこういう筋肉を普段から使っていられる…痛い。でも、嫌な痛みじゃない。



「お休みなさい…。」



ちゅっと頬にキスをして隣で眠る。いつもより多く飲んだこともありすぐに意識を手放したー…







































「ん…。」



目が覚めると背中に温かい重みを感じた。動くと重みは無くなり、それは下に落ちる。



「毛布?」



そういえば…鬼灯を待ってたんだっけ?


隣から寝息が聞こえてきてふっと横を見ると、鬼灯が隣で眠っていた。



「お疲れ様…。」



頬を撫でて毛布を掛ける。


自分には掛けないで相手にだけ掛けて眠るって…。風邪でも引いたらどうすんだよ?お前はもう半分以上は鬼じゃないんだぞ?



「ばーか。」



白衣を着て鍋に水を注ぎ、火をかける。


微かに酒の匂いがするのはきっと飲みに行ったのだろう。


仕方がないなぁ…。胃に優しい食事でも作ってやるか。



料理が出来てくると、桃タローくんが起きてきた。




「今日は早いですね。あ。鬼灯さん…帰ってきたんですね。」


「うん。酒を飲んできたみたい。」


「本当…一緒に暮らすなんて急に言われたから何かと思えば…そんなことになるだなんて…。」




それは昨日の夜のこと…僕は桃タローくんに話をしたのだ。





…。





「ええっ!?鬼灯さんが転生!?」


「うん…順番はあと一ヶ月くらいだって。」


「そう…ですか。」



悲しそうに笑う白澤に桃太郎はそっと頭を撫でる。一番辛いのはきっと白澤だろうと思ったからだ。



「桃タローくん?」


「辛いですよね…。好きな人に居なくなられるのは…。」


「な、何で好きな人ってわかったの?」


「わかりますよ。」



ニコリと桃太郎に微笑まれて白澤は居心地悪そうに目を反らす。



「俺、お二人を応援してます。なので…この一ヶ月…悔いのないように過ごして下さい。」



その一言に白澤の頬が緩み、桃太郎に笑顔を向けた。



「謝謝…。」



本当…桃太郎くんが弟子で良かった…白澤はそう思ったー…








ー…







食事の準備が整い、あとは鬼灯を起こすだけになっていた。


やっぱり…ご飯は一緒に食べてこそ美味しくなるというものだ。



「おーい。ご飯出来たぞー。」



ポンポン肩を叩くとカッ!と一気に目を開く。



「ひいっ!お前の起き方…怖っ!」


「貴方が起きろと言ったのでしょう?おはようございます。」


「おはよ…。」



ポリポリと頭を掻きながら大きく欠伸をする。


そして…僕と目が合った瞬間…口角が上がり、自然に笑う。


仕事から解放されるとこんなに穏やかな表情になるのかと思うくらいに柔らかいものになっていた。



「鬼灯さん…今…笑いました?」


「そうみたいですね…。頬が痛いんですよ…。」


「…つっ…。」


「白澤様、真っ赤ですけど大丈夫ですか?」



顔が熱い…鬼灯の笑うところなんて滅多に見られないから…やばい…。



「白澤さん?」


「さ、さー、ご飯冷める前に食べよう!ね?」



僕…この一ヶ月の間大丈夫なのかなぁ…僕が幸せすぎて死んでしまうんじゃないだろうか?


毎日好きな人が微笑みかけてくれるなんてー…



僕…今なら神様辞めてもいいっ!鬼灯と一緒に転生して幸せな家庭を築いてもいいっ!!










『鬼灯、お帰りなさい!』


『ただいま。』


『ご飯出来てるよ〜。』


『それではいただきましょう。』


『うん。お前沢山食べるから多めに作ったんだ〜。』

『貴方の作ったものなら何でも美味しいですよ。』


『もう、鬼灯ったら…食欲旺盛なんだから…。もっと食べてもいいよ〜。』


『では…最後に貴方を食べても良いですか?』


『へっ!?あ…。…う、うん。』
















なんちゃって!なんちゃって!




「あのー…白澤様?料理冷めますよ?まぁ、何考えてるのか想像できますけど…。」


「しかも妄想の中のおかずの量が半端ないのですが…。」



「はっ!…た、食べようか。」




「「「いただきます!」」」



三人で一緒に食べ始める。一人分の席が増えただけで妙に賑やかになった気がして笑ってしまう。


桃タローくんも同じようでつられて笑った。鬼灯には理解できないようだが…それでもいい。



なんか、家族が一人増えたみたいで楽しい。



鬼灯は仕事の引き継ぎがあるようで、相変わらず閻魔殿に出勤していく。それもわかっていた為、あらかじめ作っておいた弁当を渡して笑顔で見送った。



こうしていると新婚生活みたいだ…と口元がにやけてしまう。



ああーもー…


本当ー…



幸せー…



これから訪れる悲しいことは、この幸せの分だけ重くのしかかるだろうー…



だから…この一ヶ月は鬼灯に沢山愛して貰うのだと心に決めていたー…



そうだなぁ、デートがしたい。動物園に行ったり、遊園地にいったりー…



キスも…沢山したいー…



その先も…したいー…



この間は僕が拒んじゃってできなかったわけだし、アイツも多分したいだろうし!



そうだ!今夜!今夜頑張ってみようかな!



お風呂に誘ってみよう!夜景だなんてロマンチックだし、一緒にお風呂入った後にそのままの流れで…。



うん。いいかもしれない!



「へへ…。」



僕は鼻歌を唄いながら鍋を掻き混ぜていた。




一方その頃。




「白澤くんの愛妻弁当?」


「はい。作ってくれたみたいで。」


「いいなぁ。スタミナ弁当なんて美味しそう!しかも量多いし。ワシにも一口…いたっ!」


「これは私のです。」


「ケチー。」

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