話
□嫁に来て下さい
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「白澤さん。明日から私の嫁に来て下さい。」
…。
「…。…はぁっ!?」
…
「ちょっ…ちょっと待て!」
「何ですか?」
「何?って…。」
冗談にしても程がある。こいつに何の気無しにそんなことを言われるなんて…。
ああ。今日は最悪な日だ…。
「いきなり嫁だなんて…何の話だっつーの!」
「そのままの意味ですが?家庭に入り、旦那や子供の食事、洗濯、掃除等の家事をします。…そしてこき使われた後にも給料は出ないので、奉仕の精神が必要です。近所付き合いで旦那の悪口を…」
「もう説明はいいって…。日本では亭主関白ってのがあったよねぇ。最近は無くなってきてるけど。」
ちらっと鬼灯を見ても、いつもと変わらない無表情。
ふん。そんなふうに本気で言っていると思わせておいて…慌てる僕を鼻で笑おうっていうんだろう?
その手には乗らないよ。
「でも、何で僕なのさ。おまえの周りなんて沢山女の子いそうだけど?」
「はて?私はモテませんが。」
よく言うよ、この鈍感!
この間も告白されてたし、好きの気持ちもわからない癖に嫁とかなんとか考えるなよ。
「わかった。おまえの嫁になってあげるよ。」
その言葉に、ピクッっと表情が動いた。
ふん。悔しがれ悔しがれ。思うようにいかなくて残念でしたー…
「…え?」
ドキリとした。
僕はただ…悔しがるところが見たかったのに…。それなのに…。
何故?
鬼灯が微笑んでいる。
「では、明日。」
そのまま背を向けて歩いていってしまう鬼灯。
「え…え!?ま、待てよ!鬼灯!」
え?え?
何その笑顔!?
そんな鬼灯知らない…。
どきん、どきん。
心臓が五月蝿い。まさか…僕は…鬼灯のことがー…
もう一度、こっち向いてー…
「白澤さん…。明日からはたっぷり可愛がってあげますね。」
振り向いた鬼灯は、悪魔のような笑みで僕を見ていた。
一気に熱が下がり、青ざめる。そんな僕を見て…こいつはいつものように笑うんだ。
ー…だ、騙された!?
一瞬のトキメキを返せっ!
「くそっ!なんだよ嫁とか!絶対に行かないからね!あっ!こら聞いてるのかよ!?鬼灯っ!」
その嘆きは無視されて、空に吸い込まれていったー…
そして次の日…。
僕はため息をつきつつ、鬼灯の部屋へと向かうのだった。