人がごった返す河川敷に、カラフルな浴衣。
黒、茶、金の髪色が艶やかに華を咲かせるその場で、明らかに人の目を集めている自分。

…仕方がないのやも知れない。

中性的だといわれる容姿、長い藤色の髪、まん丸の目に引き眉。
藍色に染められた浴衣に、同じ生地で作られた手提げ袋、足元は雪駄。


明らかに日本人ではない自分は、どうしても周りの目を引き留めてしまうようだ。


……その証拠に、ほら。


「あ、あの……お一人ですか?もしよかったら一緒に花火見ませんか?」


恥ずかしそうに俯きながら、声を掛けてくる茶髪の少女。年は18位だろうか、一緒にやってきた男女のグループから一人抜けてこちらを見ている。グループにいる青年たちは、彼女のことを気にとめてもいないようだった。


「……すみませんが、人を待っていますので」


この断り方は今日だけで幾度目になるだろうか。

今回の女性は存外素直だったらしい、すっと身を引いてグループの中に戻って行った。







どこぞのデスマスクの真似をしたいわけじゃない、本当に待っている人がいるからここに立っているわけだが。
幾ら待ってもやって来ない待ち人を思ってため息をついたその時、後ろからカラコロとせわしない下駄の音がしたかと思うと、ふわりと私の髪が空を舞った。


「ごめん! 待った…よね?」


息を切らしながらも顔の前に両手を合わせるその人は、紛れもなく自分が待っていた人だった。


「遅かったですね。何かあったんですか?」
「ほんとにごめんなさい!支度に手間取っちゃって…」


暖色の淡い水玉模様が点々と浮かんでいる浴衣を橙色の帯で締め、紅い鼻緒の下駄を履いているその少女はアテナのご友人で、訳あって聖域の事情にも関与している。


「浴衣、すごく似合っていますね!」
「そうですか?変ではありませんか?」
「とっても似合ってますよ!髪をまとめてるのもちょっと色っぽいです」
「ありがとうございます。…あなたも浴衣、とっても似合っていますよ。可愛らしいですね」


私も同じように褒め返すと、へへ、と照れたように笑う。そして目の前でくるりと一周し、モデルのようにポーズを取って見せた。


「さあ、行きましょう!もうすぐ花火大会が始まります!」
「もう行くのです?お腹は空いていないのですか?」
「途中で焼きそばとりんご飴とチョコバナナ買っていくので大丈夫です!」


ぐっ、と胸の前でガッツポーズを作り目を輝かせる。
…どれだけ可愛く着飾っていても、食い気だけはそのままらしい。

それがまた愛らしくて、くすくすと笑いながらも、彼女の手を取り人ごみの中心部へと向かっていった。






夏のひととき

(恋が、)
(花火が、)
(これからはじまる)



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