お菓子の魔法


□プロローグ
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閑静な緑の多い住宅街の更に奥
最寄りの駅からは、本数の少ないバスに30分は揺られたあと、更に歩いてやっと高く頑丈な門にたどり着く
その門にかかる表札には堂々と「小笠原」の文字

門の中はちょっとした森のように背の高い木々が茂り、その中に一本の緩やかに蛇行した道が伸びている
まるで、その先にある物を隠すかのように

森を抜けると、正面に大きな家が現れる
家と言うよりは「邸宅」と表現する方が適当に見えるその邸は、百貨店やレジャー施設など幅広く経営する小笠原グループの会長邸である
会長以下三世代が暮らすこの邸は、今日も小さな子供がいるとは思えない程、とても静かだった

小笠原祥子は、もうすぐ十二歳になる
グループの会長の孫娘であり、母の実家は元華族という生粋のお嬢様
幼いころから、家庭教師によって礼儀作法はもちろんのこと、あらゆる教育をされてきていた
その中でも、一番年嵩の老婦人の家庭教師が教える「料理・製菓」の勉強が彼女は特に好きで、婦人が邸に来るのをいつも楽しみにしていた

他の習い事もそつなくこなし、一様に優秀であったが、こと製菓については、家庭教師の婦人も、本人にその気があるのなら、その道に進ませてあげて欲しい、と会長に進言したほどだった
 

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