お菓子の魔法


□なりたいもの
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父と祖父に連れられてパーティに出席している
祥子にとってパーティに出席することは、嫌いではないが、好きでもなかった
パーティに出席する事より、お茶やお花をやるより、スイーツを作る方がずっと好きだったのだ

今日、父と祖父は、祥子に会いたいと言っている人がいると言って祥子をこのパーティに連れてきた
その人は、このパーティの主催者で、シャトー製菓というお菓子会社の社長で、祥子より一つ年上の娘さんがいるらしい
その娘さんは「聖マリー学園」という名門の製菓学校に通っているそうだ
製菓学校という場所に、祥子は前からとても興味を引かれていた

「美夜、ちょっと来てくれ。お前に会わせたい子がいるんだ」

美夜と呼ばれたその娘さんは、ツンとした立ち居振る舞いにウェーブのかかった髪が、派手なドレスに合っている、祥子とは真逆なタイプのお嬢様だった

「なぁにパパ?」
「これが私の娘の美夜です。美夜、こちらのお嬢さんは小笠原グループの会長のお孫さんで祥子ちゃんだ。お前より一つ年下で、スイーツを作るのが好きなんだそうだよ。私も小笠原邸にお邪魔した時に祥子ちゃんのケーキを頂いたが、あれはとてもおいしかった。お前と気が合うんじゃないかと思ってね。折角だから、今日は学校の話でもしてあげるといい」

スイーツへの賛辞に丁寧にお礼を言い、美夜さんという少女に向き直る

「ごきげんよう。お初にお目にかかります。小笠原祥子と申します」

簡単な挨拶とお辞儀をし、顔を上げると値踏みするような目にぶつかった

「そのドレス…」

美夜さんは、高飛車に祥子の着ているドレスを指す

「物はいいけど、なんだか地味ね。まぁ貴女には似合っているからいいけど」

褒められているのか、貶されているのか、分からずに目を白黒させていると、ついていらっしゃいと言われ、パーティ会場とは別の一室に招かれた

「祥子さん。貴女、私より一つ年下だったわね」
「はい」
「貴女の腕前がどれほどのものか知らないけれど、聖マリーには腕に自信のある生徒が大勢いるの。そこの所、忘れないように」
「はい?」

美夜さんが、なぜそんなことを私に言うのか分からない
けれど、自分のようにスイーツを作ることが好きな人が大勢いるところ
今まで、中学は今通っている幼稚舎から大学までエスカレーターの女学院の中等部に上がるものと思っていた祥子に、他校を受験したいという気持ちが芽生えた

「はい?って貴女、聖マリーを受験するんじゃないの?」
「はい。製菓学校にはとても興味がありますが、私は女学院の中等部に進学する予定です」
「あのね。貴女のお祖父さんである小笠原会長が貴女のスイーツをパパに食べさせて、貴女と私を引き合わせたのよ?ってことは、その気があるって事じゃないの。少なくとも、私はパパからそう聞いてるけど?」

先ほど会ったばかりで、いつ何を聞いたのだろうかとも思ったが、紹介される前に話は事前にされていたということだろう

「小笠原会長が孫娘を溺愛しているなんて、有名な話よ。その会長が製菓学校についてパパに尋ねたんですって」

美夜さんはそう言うが、祥子自信は祖父に溺愛されている自覚は全くない
それどころか、父も祖父も多忙で同じ邸に暮らしていても滅多に会う事もない

「まぁ、その気があるなら気持ちを押し込んでないで小笠原会長にちゃんと言うのね」
「…ちゃんと言えるでしょうか」
「私が見たところ、貴女は人づきあいが苦手そうだわ。常に一歩引いてるから、自分の思ったことを伝えられないのよ。聖マリーに来るなら、せめてそのほえほえした空気と物言えない口をなんとかなさい」

なんとかと言われても、どうしたらいいものか…

「あぁもう。例えば髪を結ってみるとか…サラサラストレートの長い黒髪なんて結いにくいだろうけど、スイーツを作るときにはキッチリ纏めなきゃダメよ」

イライラしているようにも見えるが、見た目よりずっと面倒見のいい人のようだ
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