書物
□蛇神 一の幕
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町の外れ、心臓破りの坂を登って登って………遥か町の全てを見渡せるほどの高台に、長者 井上一族の屋敷はあった。
一族は、町で一番の金持ちで、それは噂の範囲を出ないがーーーー家人と使用人だけでも、40人は有に越しているのではないか、と言われていた。
何故井上一族がこんなに栄えたのか。それも噂の範囲を出ないが、なんでも三代前の流れものが此処で大店を開いたところ、思わぬほど儲かったとか、どこかの貴族の落胤だとも言われている。
実際噂になるほどに、井上一族が営んでいる大店や事業はどれも大成功で、これ以上の栄えようはない、というほどであった。そのため、妬みや恨みも数しれず、だ。
その井上一族当代、井上佐吉ーーーー彼は人柄よく、家族も大切にしており、なおかつ店のやりくりもうまく…………ことに、町の皆からは信頼されていた。
「佐吉様、また倉に行かれますか?」
井上の屋敷。昼だというのに提灯をもち、なにやら片手に丼を持った佐吉は………使用人に呼び止められ、あぁ、と振り返った。
朝と夜のは、俺の仕事だからね。ーーーー何のことを言っているのか、赤の他人が聞いたら分からないだろう。が、使用人……お弓はよしなに、と頷き、私も参ります、と彼に行った。
「灯りは私が持ちます。佐吉様」
「おぉ、すまないね。ーーー何、怠るわけにはいかないからな」
「あの方のお陰で、井上の一族は栄えたとお聞きいたしました」
お弓の言葉に、そうだ、と佐吉は頷く。あの方、と行ったが、それが人であるかどうかは疑問だろう。なにせ、藏にいるのだ。どんな化物か、あやかしか。
二人は母屋を離れ、薄暗い蔵前に立つ。古ぼけた蔵は、まだ真昼であるというのに、暗くうすらぼんやりと敷地内に佇んでいて。
ーーー入るぞ。何故か固唾を呑んだ佐吉が、お弓に言う。お弓は小さく頷き、佐吉の代わりにか蔵の扉を開けようとした、が。
佐吉様!!ーーーー遠くから佐吉を呼ぶ声に遮られ、それは寸前で止められる。バタバタと、草履に転びかけながら走ってくる下男。
何を慌てているのだろうか。佐吉がどうしたらと短くその下男に問えば、彼はひいひいと息を整えて………。
「あ、怪しい奴らが!!!!」