書物

□座敷童子 二の幕
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「この屋敷には、何かがある。身重の女と、座敷童子ーーなにか、ご存知ありませんか」








薬売りが、女将に目線を向ける。が、女将は口を閉ざして目を逸らしてしまい、話しをする気は全くないらしい。徳次も徳次である。








やれやれ、馬鹿者めがーーーー何に怒ってか、御室が溜息を吐く。そして志乃に目線を向け、志乃とやら、と言った。









志乃は彼女に名前を教えた覚えはない。訝しげに首を傾げる志乃に、御室は短い眉にしわ寄せながら問うた。








「お前、殺された男ーーー知ってるだろ」







「っーーーー」








何も知らないはず、赤の他人の御室にずばり言い当てられ、志乃は目を見開いて黙り込む。沈黙が、部屋を訪れた。








ーーーー知らんわけはないだろう。御室が、急かすように言う。こら、と薬売りが口を開きかければ……彼女は鋭い視線でそれをいなす。








やがて、志乃は恐怖にも慣れ、話す覚悟がついたらしい。ゴクリと息を飲み、さ迷う視線を御室に定めた。








「あの男、直助といいます。……殺し屋です。私と、ややを殺すために……」







「誰が」







「大奥様と、大旦那様が」







「どうして」








「私と、若旦那様の間にできた子供だから………」







「許されない」







「関係でした」








誘導されるように口を開く志乃が、きっと鋭くまゆ寄せ、けれど、とやや怒鳴るように言葉を足早に紡いだ。








一度は許していただけたのにーーー!!!どうしても、子供が大切らしい。そんな志乃を見て、女将は分からないねぇ、と投げやりに呟く。








私はただ、産みたいだけーーー!!志乃が一際大きな声で言った刹那。どおん、と部屋が左右に揺れながら、大きな音が響き渡る。








そんな非常事態でもうたた寝する余裕があるらしく、目をつむる御室に忌々しい目線をくれた女将。彼女はああやだやだ、と言って立ち上がった。








「モノノ怪だろうが、妖だろうが、この屋敷に何かあるならーーー出ていけばすむ話じゃないか」








出来ると思うか。寝ぼけ眼で突き放すように言った御室を一瞥。女将は震える手で襖に指をかけ、勢い良く開け放った。が。








「ええええ?!!!!?」








そこに廊下というものは存在せず。あるのは、合わせ鏡のように永遠に続く同じ部屋の、まるっきり同じ光景。








廊下はーーー!?慌てふためくように言った女将を鼻で笑い、だから言ったのにと御室は言う。どこまでも彼女は他人事である。








どおん、と再び響いた轟音。それでいてなお冷静な、御室と薬売り。ぱっと現れた二人は、一体何者かーーー志乃には分からない。








ただ、この二人が自分を守ろうとしていること。そして対峙しているものが、モノノ怪だということはーーー今の志乃にも十分分かった。
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