書物

□蛇神 大詰め
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「あ、あ、あぁ!ーー蛇神様がぁ!!!!」







「落ち着け。奴はもう神などではない。ーーーー人の恨みに身をふくらませたモノノ怪だ」







阿鼻叫喚の中、御室は物静かだがよく通る声で使用人を牽制し、鋭い視線で蛇神をきっと睨みつける。蛇神の赤い視線が、彼女を捉えてーーーー。







蛇神は鳴き声のようなものを夜空に響かせ、天に向かって大きな舌を出す。そして…………急に身を滑らせながら、御室に向かって首を潜らせ吹き飛んだ屋根の隙間から突進した。







すぐ眼前に迫った蛇神に、薬売りは御室の脇腹を抱えたまま、飛び退こうと膝を曲げる。が、御室はそんな薬売りに首を横に振って………。







何か指で印のようなものを結んだかと思うと、それを口の前に運び、早口で何かを唱え始めた。悪鬼止刃、安楽三柁羅ーーーーーそして彼女の傷だらけの左手が、蛇神に翳されれば。







蛇神の動きは、御室と薬売りを飲み込もうとする寸前でぴたりと止まり、蛇神もそれ以上は進行できぬと言うように、赤い瞳をめらめらと怒りに燃えさせる。







今、何がーーー?目を見張る使用人。が、刹那に御室は膝から崩れ落ちてしまい、蛇神の止まっていた動きも、これ幸いと言わんばかりに勢いを付けて彼女に襲いかかった。







「御室っ…………くっ…大丈夫か!?」







「すまん……どうも、力が無いみたいだ。ふっーーーー足手まといだな、薬売り。どうぞ私には構うな」







「冗談じゃあないね。……っと。俺はお前を連れて帰ると決めたんだ」







蛇神の牙から御室を抱えたまま跳躍して避け、薬売りは座敷牢の隅に御室の体を下ろす。蛇神は赤い瞳で、あいも変わらず彼女の姿を探している。







御室は傷だらけの体を揺らし、力なく笑いながらーーーー光の薄い浅葱色の瞳で薬売りを見上げ、すまないな、と眉を寄せながら笑った。







役に立てなくて、すまない。ーーーーそういう意味だということぐらい、薬売りは知っているから。彼は悲しそうな顔で眉を寄せ、馬鹿を言えと御室の体を抱きしめる。







何があろうと。御室をこれ以上危険に晒したりはしない。薬売りは、もう二度と彼女を傷つけぬよう、盾になって見せるのだから。







「薬売り!!!後ろだ!!!」







「っ!!!!」







使用人の声に、薬売りが我に帰り後ろに振り返れば。蛇神の牙はもう眼前に迫っており、最早これまで、と薬売りは覚悟してゆっくりとひとみをとじた。が、しかしである。







御室の、再び何かを唱える声。痛みや苦しみに耐えた辛そうなその声に、薬売りを喰らわんとしていた蛇神の動きは再び止まり、赤い瞳がゆらゆらと揺れる。





馬鹿、もうやめろ!!!ーーーもう体力や力などないだろうに、薬売りを守るために言霊を唱え続ける御室に、薬売りは低い声で怒鳴った。が。







御室はそれでも言霊を唱えるのをやめず、薬売りの怒鳴りにも動じない。一体何を考えているのだろうか。このままではーーーー蛇神を斬る前に、御室が先に死んでしまう。
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