書物
□化猫 大詰め
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「お前が言うのか!!お前が…!!!」
「お前だと!?」
「私は、言われてやっただけ!!何も悪くないわ!!!!」
ドオン。凄まじい音。片手で化猫と対峙していた薬売りの右手からは………刹那に血が溢れ、化猫は再び自由な動きを取り戻した。
私を、いいように使って!!!!ひどい話よ!!!!さとが、叫ぶ。叫びに呼応するように、化猫は動きをなし、幾度となく薬売りに襲いかかる。何故だ。右手から溢れる血に、薬売りは目を見張り眉を寄せる。
ーーー怒っているのか。いや、違う。何かが足りない。薬売りは、怒鳴る。どうしようもない虚無感と痛みが、彼の体を駆け回った。
「加世、小田島!!!皆を連れて奥に逃げろ!!!!」
「で、でも御室様………その花嫁衣装を着て、どうするんですか…!?」
「私に構うな、早く!」
いつの間に拝借したのだろうか。真央の花嫁衣装に腕を通し、化猫に向かい合う御室が、戸惑う加世に怒鳴る。
いきなりの指示に、戸惑う二人だが………彼女のあまりの剣幕に押し負かされ、小田島はご隠居を、加世はさとを引き連れて奥に逃げようとした。が。
伊國と笹岡が奥の扉を閉ざしてしまい、それは叶わない。小田島が扉を蹴上げようと足を上げた、その瞬間。………加世の体が、壁に叩きつけられた。
「いつもそんな目で私を馬鹿にして!!!」
「っ……!!!」
加世の首を絞める、さと。もはやさとに正気らしいものは存在しないらしい。あぁ、もう、何もかも分からない。頭を掻きあげ、御室は息を吸った。
薬売りは、とうに力伏せて倒れ込んでいる。目を覚ますには敵わないだろう。御室の頭は、今この場で太刀打ち出来るのは自分だけだと………無常にも、察してしまった。
ーーーーそうか、分かったぞ。
花嫁衣装をたぐりよせ、御室が微笑む。そして………かつて浮かべた事のない優しい笑顔で、化猫に口を開いた。
「ねこ………ねこ…可愛い、おいでーーーー」
一 緒 に い こ う 。
訪れる、静寂。化猫の動きすら止まる中、御室は化猫に向かって微笑みかけると………包み込むように、その華奢な両腕を広げた。
ぐぉぉぉ!!!!ーーーー化猫が、鳴く。屋敷を震わせるほどの声をあげて、やがて化猫は…………大きく開けた口で、微笑む御室を覆い、自らの体に帰依するように彼女を赤黒い体で包んだ。
「御室様!!!!」
小田島が、叫ぶ。が、わずかに見えていた御室の指は…………彼の目の前で、目にも止まらない早さで化猫に包まれ、見えなくなった。
ドオン、何を思うてか、化猫が動き回り、裂けた口に歪な笑を浮かべる。………狂ったように笑い続けるさとは、それをみて半狂乱に叫んだ。