書物

□座敷童子 二の幕
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どおん、とまた部屋が揺らぐ。徳次と女将にはーーーー群がる幼子。そして………志乃の前に佇む、幼子。








目を見開いて幼子を見つめる志乃。幼子はそんな驚きを隠せない志乃に微笑みかけ、そしてーーーーー。








「おっかぁ」







懐くように、言った。








刹那である。薬売りが身の危険を感じて体を翻したと同時に、部屋はまっぷたつに別れ、意識を手放した志乃、そして御室の姿がーーー彼から遠のいていく。








御室ーー!!!薬売りが叫んで、手を伸ばせば……彼女は大丈夫だ、と極めていつものように笑い、やがて見えなくなった。








頬を撫でるあたたかい風。その髪の毛を揺らすような豪風の中で、薬売りの足元には、あの沢山の達磨が群がっていた。









「っーーーー?」








冷たい石造りの一室で、志乃は目を覚ます。そして人の体液のような生臭さに、臭いーーと眉をひそめた。








そんな彼女の前にはーーーちりん、と鈴を鳴らして佇む、数多の天秤。きらびやかなそれは、おそらく薬売りのものだろう。








首を傾げる志乃。そして、寝転ぶ彼女のお腹にはーーーー。








「いやぁぁぁぁぁ!!!!」








あの幼子が、一人。安らかな寝息を立て、志乃の体にしなだれかかるように目を閉じて眠りに就いていた。








そのあまりの恐ろしさに、志乃は声にならない声をあげ、部屋の隅に逃げる。そして、彼女の視線はーーー部屋の中央、滴る水に佇む、柩のような箱に定まった。








あれは、何ーーーー?志乃が眉をひそめた瞬間。まるで見計らったかのように、襖を挟んだ隣から嬌声が聞こえ、衣擦れが響く。








「人…………?」








こんな所に?罪悪感に駆られるが、好奇心には勝てず。志乃は襖をそぅっと開き、部屋を覗き見る。そこには。








嬌声を上げ、布団の中でくんずほぐれつを繰り返す男女がひと組。男が女の上に体を重ね、女は快楽に顎を仰け反らせて高い声で甘える。








あっ、と、志乃が状況を理解した時には。二人は志乃の存在に気づいたらしく、嬌声を辞めて志乃をじいっと見つめる。









「ご、ごめんなさい!!!」








今度も勢い良く襖を閉めた志乃。男女は再びくんずほぐれつを再開し、やがて高みへと駆け上がっていく。その布団から出るのは、1枚の赤い布。








ぱたん、ぱたんと、一人でに開いていくその布。男女は気づくはずもない。そして、その先にはーーーーあのややが、居場所を見つけたように微笑んでいた。








ーーーーおっかぁーーーーー









「はぁっ……はぁっ……」









見てはいけないものを見てしまった。後ずさる志乃。そして、柩を囲む石に躓いてしまい、転んでしまった。








「お前ーーー趣味は覗きか」







「えっーーー!?」








急に響いた声。思わずそちらに向けばーーーー寒々しい空間の中、絹の一枚布を頭から被り、ねむそうに彼女を見つめる御室。








いつからそこにいたのか。自分一人だと思っていた空間に突如として現れた御室に、図らずも志乃は目を見張り彼女をじぃっと見てしまう。








人の部屋を見るなんて、悪趣味だなぁ。彼女の中では、まだ話が続いていたらしい。くつくつと綺麗に笑いながら、御室は悪戯っこのような笑で志乃を見た。
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