短編

□彼に会いに
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オーキド研究所の台所にて、トントンと包丁の音が聞こえてくる。そこにはカントーの母ことキングラーと、シンオウの母ことムクホークが昼食を作っていた。二人は基本食事全てを作っており、ハハコモリと揃って絶品の料理を振舞っている。因みにハハコモリは今洗濯中である。

「キングラーは本当に料理が上手なんだね。特に和食。尊敬するよ」
「煽てても何も出ないぞ?それに、俺なんかいっつもドジやらかイッタア!?」

言ってるそばから包丁で指を切ってしまう。ドジなところがある彼は得意な家事をやっている時でも怪我をする。それでも何の支障もないのがキングラーのすごさである。

「それに、お前だってすごいだろ。シンオウ組の家事殆ど一人でやってたんだろ?」

キングラーの言うとおり、ムクホークは家事をするのが好きだということもあって、自ら進んで家事をやり続けていた。時々ゴウカザルとブイゼルが手伝うが、独り占めしていることが多い。

「でも、キングラーの方が家事経験長いでしょ?本当、俺もキングラーみたいになりたいよ」

ムクホークの言葉にキングラーは照れと戸惑いが混じった微笑を浮かべる。もともと穏やかで優しい性格のキングラーは、後輩には少し甘いところがあった。そのため、自分のことを慕ってくれているムクホークの話を照れながら聞いている。

が、

「ピジョット先輩も幸せ者だね」

ガシャン!ガラガラ!…ストン

「だあぁぁぁぁぁ!!!?」
「うわぁぁ!ごめん!大丈夫!?」

顔を真っ赤にして固まったキングラーは、皿を割り、鍋を落とし、包丁をつま先ギリギリの所に落とした。あと一歩前にいたら大惨事になっていた。ムクホークは反射的に謝るものの、キングラーの突然の動揺の理由は分かっていない。

「どうしたの?ピジョット先輩と何かあったの?」

単刀直入に聞くがキングラーは赤面したまま黙っている。問い詰めずに黙ったまま待っていると、観念したかのように口を開く。

「さ、最近大変らしくて、会えないから…その、寂しいっていうか、何ていうか…」

恥ずかしがりながら言うキングラーはどこか悲しそうで、瞳はやや揺れていた。

「つまりいきなり先輩の名前出したから驚いたってことかな」

そう言うとキングラーはこくんと頷く。普段は穏やかでも、恋人のピジョットのこととなると急に慌てふためいたりあがってしまう。可愛いなあ、なんて思っていると、ムクホークはあることを思いつく。

「だったらさ、キングラーから会いに行ったらどう?」

ツルッ、ガシャン!

「アイッタア!」

手を滑らせ拾っていた皿の破片を落としそれで指を切ってしまう。さすがのムクホークもフォローしようがない。ほんの些細なことですぐに怪我をしてしまう彼はピジョット関連の話だと5割増しで怪我をする。そのくらいピジョットのことを気にかけているのだ。

「ほら、先輩頑張ってるんだから差し入れとか、そういうの持ってったら喜ぶと思うよ」
「む、無理だよ…。迷惑だろ、いきなり来られても」

ムクホークの提案にキングラーは首を横に振った。ボスをしているピジョットはいつでも相手をしてくれるわけではない。そんな彼のことを案じてキングラーは自分から会いに行こうとはいなかった。

「大丈夫!ピジョット先輩喜ぶよ、絶対!」

ムクホークも簡単には引き下がらなかった。そんな後輩の必死な姿に疑問を感じながらも折れてしまう自分がいた。

「…じゃあ、菓子持っていく」
「やった!」
「は?」
「なんでもない!」

突然ガッツポーズをするムクホークにキングラーは疑問符を浮かべるが、すぐにムクホークは平然とした態度を取る。

「じゃあ、昼御飯食べ終わったら行くな」
「うん」

この後キングラーは、いつも以上に手際良く準備し、かなり早く昼食を食べ終わったらしい。後片付けは事情を知っているムクホークが引き受けたので、キングラーはかなり早くピジョットのいる森へ向かった。
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