短編

□失いたくない
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手当てが終わり、ムクホークが言うには、暫くしたら目を覚ますらしい。皆は安堵するが、ゴウカザルだけはまだ不安げな表情を浮かべていた。

「グライオン…」
「ゴウカザル、グライオンは大丈夫だから。心配はいらないよ」
「何があったかオイラ知らないけど、グライオンはゴウカザルのこと恨んでないと思うよ」
「寧ろあいつがお前のことを恨んでたら明日は嵐だぞ」
「ぎゃ。大丈夫」
「…ありがとう、皆」

その後、グライオンが目を覚ますまで皆はずっと一緒にいた。そして、数時間後

「う、うぅ…」
「グライオン!」

声が聞こえたので皆が駆け寄ると、グライオンが目を覚ましていた。

「…」
「グライオン、大丈夫?」
「グライオン!ごめんね!俺がかっとなっちゃったから!」
「…」
「グライオン?どうしたの?」

「君ら…誰?」

グライオンの言葉に、全員が呆然としてしまう。訳が分からず、問い詰める。

「グライオン、俺たちのこと分からないの!?」
「分かんない。君らのことも、俺のことも」
「嘘…何で!?」
「…ムクホーク、これは」
「うん、多分記憶喪失だよ」
「記憶喪失!?」
「グライオンは、頭を強く打ったようだからね。その衝撃でこうなったんだと思う」

ムクホークの言ったことに皆は言葉が出なかった。グライオンはそんな彼らをぼんやりと眺めていた。

「とりあえず、俺たちのことも分からないなら、教えとかなきゃね。グライオン、俺はムクホークだよ」
「そうだね。オイラはドダイトス、よろしくね」
「ブイゼル…」
「フカは、フカマル、ぎゃ」

皆が自己紹介するのに、グライオンは軽く返事をしていたが、一人だけ違った。

「…俺はゴウカザルだよ、グライオン」
「…」
「?どうしたの?グラ、」

ガッ!

「!!?」
「な!グライオン何してるんだよ!?」

なんと、ゴウカザルが名乗った後、グライオンはいきなり殴りかかって来た。突然の出来事に周りは驚きを隠せない。

「なんかわからないけど…

君を見てると、腹が立ってくる」

それは、いつものグライオンなら考えられない言葉だった。自分に優しく接してくれるゴウカザルを誰よりも尊敬し、好きでいたグライオンが、冷たく言った。

「…、ごめん」
「え?」
「俺がっ、俺のせいで、こんなことにっ、…ごめんね、グライオン…ごめんね…!」

ゴウカザルはグライオンに嗚咽交じりに言った。可愛がっていたグライオンにあんなことを言われたのが余程悲しかったらしく、その目からは涙がこぼれていた。

「…とりあえず、今日はもう解散しよう。色々落ち着かせないと…」
「そうだね…」

皆はそれぞれの部屋に戻って行った。皆の表情は暗かった。

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