俺たちの平凡で平凡な日々のお話


□俺らの再会
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───アタシ、アメリカ行くんだ。

雨の下でこの人は言った。
「な、にいって」
「だからアメリカ行くっつってんだろうが」
そういってアンタは儚げに笑った。
嗚呼、何でこの人は
「……何で俺に話したんだよ」
「あ゛?
あー……一番手のかかった……可愛い後輩だしな」
「……。」
何でこの人は俺を、
俺を滅茶苦茶にして、
俺の前から何も言わずに

────消えるんだよ。

憧れてたのかもしれない
慕っていたのかもしれない

案外アンタのこと好きだったよ
「……そうかよ」
「おう」
「さっさといけよ」
「おう。じゃあな
もう、会えないと思うが、多分お前のことは忘れねぇよ」
そういってアンタは笑顔で歩いていった。
でもその後ろ姿は何故か滲んでいた。少し、雨がしょっぱかった。

────もうアンタにはこの気持ちを伝えられなくなってしまった。



十年後。
もう二十四歳になった俺は赤司の経営する大手企業に勤めていた。
人間月日が経つと丸くなるものである(髪型も中学時代に戻った)。少し感心しながら仕事をこなしていると、上司である氷室が声をかけてきた。
「ショウゴ!
今日、友達がアメリカから日本に来るんだ。君を紹介したいし、一緒に来ないかい?」
「はあ」
要するに一杯ひっかけようということである。酒は好きなので快く了解した。

そのアメリカから来日したという人を待つために羽田空港まできていた。少し待っててくれ、と氷室が便を確認しに行ったので大人しく待つことにする。
すると声をかけてくる女性がいた。
「あの、ハイザキショウゴ君であってるかな?」
「あ?そうだけど
誰だよおま」
お前、という言葉は彼女によって遮られた。いきなり頭を叩かれた。
「Hahaha!
先輩の顔を覚えてないとは寂しいねえショーゴ君よぉ?」
「……てめっ!!」
そうして彼女───虹村修美はにかりと笑った。
「よう、久しいな。元気してたか……って、なに泣いてんだよ」
「え?」
確かに自分は泣いていた。勿論、ゴミが入ったとかそういうわけでもないし、

あの時のように雨のせいでもない。

虹村は灰崎の顔を覗くように見てから自分の手で彼の涙を拭った。
「おうおう、なんだよ。こっちが恥ずかしいじゃねぇか。
つか、お前がこんなに喜んでくれるとは思ってなかったわ」
するとまた彼女ははにかむ。そして頬にキスをした。灰崎が放心状態でいると、氷室が帰ってきたようだ。
「シュウ、ここは日本だよ。知り合いに会ったからといってキスするのは褒められたことじゃないな」
「うるせぇなぁ。良いじゃねぇか、折角可愛い後輩に会えたんだからよ」
「後輩?」

世界って案外狭いものだね。
そう氷室が呟いたことに激しく同意である。全く狭いどころか窮屈だ。
今はある居酒屋で飲んでいるのだが、その店主が黒子の高校時代の先輩とやらだったりとまあ世界は狭いものだ。
「ここの酒はうまいな」
虹村が呟く。
「なんだっけ、ここの店『鉄心』だよな?」
「そうですよー」
虹村の問いにのんびりと答えたのは店主の木吉鉄平。店の名前の由来は高校時代に付けられたあだ名だそうだ。本人は微妙だったようだが。
「俺はあんまり好きではないんですけどね、その名前。でも俺足壊してからバスケできなくなっちまいましたから、そのバスケやってた証が欲しかったんでしょうね」
店主はそういって笑った。虹村は驚いたように聞き返す。
「足壊したのか?やっぱりオーバーワークとか?」
「違いますよ」
出てきたのは店主の嫁。順子である。元の姓は日向で、木吉のよき理解者だそうだ。
「壊したんじゃなくて壊されたンスよ」
「ちょっと、順」
木吉が少し焦るが順子はお構いなしに続けた。
「『悪童』にね、やられたんですよ」
「あくどう?」
順子はクスリと笑い、虹村達の丁度左の方のカウンター席をみた。
「そんな有名じゃないな、悪童」
麻呂眉が印象的な男はぶっと吹きそうになっていた。そして順子をねめつける。
「ほっとけ、何で話を俺にふるんだよ」
そしてチューハイを煽った。
「それにあん時のことは謝ったろうが」
「私は根に持つタイプだからね」
「ふはっ、器のちっせぇことだな」
そしてそこから喧嘩が勃発し急いで周りの奴は避難にかかる。ただ当人である木吉の笑い声が響いた。

鉄心でてんやわんややった後、良い時間帯になってしまったなと居酒屋をでる。すると氷室が虹村に話しかける。
「シュウ、家まで送っていくよ」
「あー……ホテル泊まるんだけどきまってねぇんだよな」
「じゃあ俺ン家泊まるか?」
もちろん冗談のつもりだった。のだが。
「いいね」
と虹村は了承する。氷室も驚いたようだ。
「は?」
「悪いか?」
「お前莫迦だろ」
「ほう、隠していたがやはり解るか」
「何様だ」
そして結局俺の家に泊まることになった。俺の理性よもってくれ。
「それにアタシ、お前だったらいいぜ」
氷室と別れた直後に虹村がこうはなった。何がとは聞かない。
「……覚悟はできてんだろうな」
「その前にお前の返事次第だなぁ」
虹村を彼は見据える。彼女はにやにやと彼をみる。彼の頬は少し赤くなっていた。
嗚呼、俺らしくねぇ。
「莫迦」
「莫迦はお前だ馬鹿」
虹村はぎゅっと灰崎の腕を自分の腕と絡めた。
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