鉄血夢 表ver

□血濡れの少女
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第1話 郷夢

久しぶりに夢を見た。
風が吹き、木々が囀ずる。
太陽の光を浴びて海はキラキラと輝き、美しいコントラストを描く。
ふと、辺りを見回せば、鬱蒼と繁っていた木々の間から溢れるような光が見える。
葉が光合成をしているからか、ここはいつも空気が澄んでいる。
目一杯空気を吸い込みはきだす。心が、体が浄化されていくようだ。

ああ、やはり、私はここが好きなんだな。
何度も何度も見る夢に私はいつも救われている。
いつかまた この景色を もう一度この目で見るまでは。
どんな手を使ってでも、生き延びて見せる−

夢が、終わる。
見ていた景色がバラバラと引き裂かれ、パズルのピースのように散らばっていく。
そうして、自分の耳に飛び込んで来たのは、聞きたくもない嫌な音だった。

「いつまで寝ているつもりかな?−そろそろ働いて貰おうか」

グズが、と思いつつ目を開ける。
そうか、漸くここから出ることが出来ると言うことか。
薄暗い部屋の中では今が何時なのかも分からない。
そこに自分を見下ろしているだろう輩のことも、ずっと閉じられていた目には映らない。
それはそれで良かったかもしれない。
顔が見えていたら、何をするか分からない。

しかし、何故こうも攻撃することでしか己を維持することが出来ないのか。
理解が出来ない。いや、する必要はないのかもしれない。自分に必要なのはあの場所だけ。こいつらと同じ思考を持っている訳ではないのだから、それも当然。


ガチャンっ!


どうやら壁に繋がれていた手枷が外れたようだった。
だらんと下がる腕に舌打ちしたくなるのを押さえる。
何もない簡素な場所とは今日でお別れだ。

別段愛着もないが。

押さえつけられていた手に力が入らない。
暫くは筋力をつけるのを最優先としよう。
そうでなければ、日常生活を送ることもできない。

苛立ちを必死に抑えつける。
まだだ。
ここで暴れまわるわけにはいかない。
煮えたぎるこの殺意を隠してここまできたのだ。

もう二度と、奪われてたまるか。
ただ一つの目的を追い求めるためには、私は悪魔にだって身を売ることを厭わない。

さあ、始めようじゃないか。

血で血を洗う、そんな物語をー

そのための一歩を、まずはここから。
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