鉄血夢 表ver

□血濡れの少女 3
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第3話 困惑

「どうなってやがる!また、MSが来るなんて・・・!!」

CGS、いやそのCGSにクーデター起こし、鉄華団と名を改めようと皆で笑い合っていたところだった。
三日月の活躍により、決闘を仕掛けてきたギャラルホルンを討ち歓喜に沸いていた面々は、暗くなった先にもう一つのMSが近づいてきていることに気付くのが遅れてしまった。
いち早くその姿を捉えたのは、監視をしていた年少組だった。

「監視班から報告!エイハブ・ウェーブの影響を観測しました!!MSが、ギャラルホルンのMSがこっちに近づいています!!」

歓喜に沸いていた皆がその報告に静まり返った。
オルガは難しい顔をしながら、三日月を見る。
先の戦闘を見る限り、決闘という同じ手を使ってくるとは考えづらい。
そして、相手はまたMSだ。
そうなってくれば、こちらが取れる手はおのずと決まってくる。

オルガの視線を受けて三日月はオルガを振り返る。
その目に宿るのはいつもと同じ強い意志。
この目に応えるために俺はいつだって粋がってきた。

「・・・ミカ。行ってくれるか?」

「いいよ」

「いいよっておい三日月!さっきとはまた場合がちげえんだぞ!オルガ、てめーもだ!」

「だからってここで引いても仕方ねえだろ。連中はこれからだってずっと襲ってくるんだ。お嬢さんの護衛を引き受けた以上、俺たちは筋を通す必要がある。これから真っ当に仕事をするためにもな」

「だからって、」

どうしたって戦闘は避けられない。
ならば戦うしかない。
そのためには、自分にできることを、やれることをやる。

「じゃあ、行ってくる」

「頼んだぞ、ミカ!」

そんな少年たちを見ながら、クーデリアは無力な己を責めながら拳を握るのだった。



二つのMSが藍色の空の下で向かい合う。
先ほどと異なり、相手は何の意思表示もしてこない。
それどころか、動く気配すら感じない。
不気味に佇むMSに三日月は首を傾げる。

『ミカ!聞こえるか』

「うん。オルガ。これ、どういう状況なの?俺は、どうすればいい?」

このまま蹂躙するのは可能だ。
だが、一体何の目的でこのMSが来たのか。
オルガもまた相手の意図を読みあぐねていた。すると、無言を貫いていたMSから唐突に通信が入った。

『めーでーめーでー。聞こえまーすかー』

「こども?」

それは幼い少女の声だった。
とはいえ、MSに乗っているのだから恐らくは自分たちと同じくらいの年齢なのだろう。
だが、そうはいっても驚きを隠せなかったのは事実。
三日月が訝しむように呟いた。
こちらを挑発しているのだろうか。
意図の読めない相手にオルガは慎重に応える。

『あ、あー。聞こえている』

『あ。返事が返ってきた。じゃあこれで合ってるのか。使いづらいなー』

まるで緊張感がない相手に、オルガは眉間に皺を寄せていく。
どうにもやりにくい相手だ。
戦う気があるのかも、これでは分からない。

『えーと、聞こえているようなのでそのまま話します。こっちはぎゃら・・・まぁ言わずとも分かってるとは思いますが、その組織のものです。こちらの要件は一つ。そちらに依頼されたクーデリア・藍那・バースタインについてです』

ギャラルホルンからの使者だといいたいのだろうが、どうも歯切れが悪い。
ギャラルホルンと言えば、強力な軍事力を持った軍隊である。だと言うのに、少女からはそんな印象は感じられない。
まるで世間話をするように声の主は続ける。

『私が望むのは、クーデリア・藍那・バースタインとの対談です。そのためならこちらの武装は全て解除します。もちろん、MSもこのままここに置いておきます。あ、いないという嘘をつくならば、武力介入も厭わないということは明言しておきます。他にも私が呑める条件があるなら、呑みます。というわけで、まぁ、信じられないのは無理かもしれませんが、そんな感じでお願いします』

『・・・・はぁ?』

オルガはもちろんその通信を聞いていたものは全員同じような声を発した。
相手の言っていることを鵜呑みにすれば、ほとんど丸腰でこちらに来るということになる。
そこまでして乗り込もうとしているのに、要件はクーデリアとの対談だという。
これで、信用しろというのがおかしい。

『何故、クーデリア・藍那・バーンスタインがここにいると?もうこの場から去ったと可能性もあるだろう』

『だったら、それをそのまま負けたおっさんに言えばよかったんじゃない?MSとはいえ、そっちにもMSがあるんだから下手に威嚇するより被害はなかったはず。こどもならあのおっさんも悪いようにはしなかっただろうし。それをしなかった時点でクーデリア・藍那・バースタインがここにいるのは明白だ。というわけで、いるのは分かってるんだから、私の要件を呑むか否か決める検討をして』

オルガが慎重に聞けば、少女は取ってつけたような丁寧語をやめてだいぶ崩した言葉遣いで対応してきた。
確かに、ここにいることは明白だったかもしれないが、ここを離れている可能性は捨てきれなかったはずだ。

しかしすでにMSを撃破していることからその事実をこちらから認めてしまったのだ。
そこを突いてくるとは、読めない相手ではあるが、頭の回転は悪くない。
下手な嘘では、見破られる。
そうすれば、本人の言った通り武力介入も辞さないのだろう。

『あ、長引くようだったら1時間くらいは待つから。終わったら呼んで』

そう言うと相手は一方的に通信を切ってしまったのだった。
何故、1時間と困惑していると、三日月から通信が入った。
その声はいつもと変わらない三日月の声だった。

『どうするオルガ?』

『ミカ、そこから見て、相手の様子はどうだ?』

『うん。なんか変だなと思って見てたんだけど、あっちの人MSの中にいないよ』

『あ?どういうことだ!?』

『いや、なんかMSの肩ら辺に座って話してたみたい。で、今は空?を見てる』

器用だよね、とまるで興味なさそうな三日月の平坦な声にオルガも他の奴らも言葉を失うのだった。
確かに動かす気はないと言っていたが、まさかMSに乗ってすらいないとは思っていなかった。
どおりで三日月が動かずにいるわけだ。
相手から全く敵意が感じられないのだから、当然と言えば当然だったのだ。

これはいよいよ、相手が本気で武装解除していることを認めなければいけなくなっていた。
そう言えば、さっきからエイハブ・ウェーブの影響を感じないと誰かが呟いた。
オルガもハッとしてユージンたちを見れば、同じことに気付いた誰かが中に入って行く。
しかし、その前にすでに中にいたビスケットが非常に困惑した顔でこちらを向いていた。
それだけで何が起こっているか理解した。

そうつまり、相手は完全にMSの動力を切ってあそこに佇んでいることになる。

『本気、なのか?』

戸惑うようにオルガがそう聞けば、相手は億劫そうに答えた。

『だから、そう言ってんじゃん』

その呆れたような声に、頭を抱えそうになった。



「あちらがそう言っているのであれば、私の方は構いません。むしろ望むところです」

やり取りを聞いていたクーデリアがきっぱりと宣言する。
ユージンは言うと思ったという顔を隠しもせずクーデリアを見ている。
オルガも似たようなことを思っていたので、強くは言えない。

「どうなるかわかんねーんだぞ」

「それでも、行きます。私と話をしたいと、言ってくださっているですから。無下になどできません」

確かに、相手は話すことを望んでいる。
だからといって危険がない訳じゃない。

とはいえ、相手の思考の裏を読んでいても、膠着状態にしかならない。
1時間という時間の後に相手がどんな要求に変えてくるかも分からない。

ならば。

オルガは口の端を上げる。
振り回されっぱなしでいるのはこれまでも一緒だ。
だったら、

「罠だとしたら、その罠ごと噛み砕けばいい」

「おい、オルガ。まさかっ!」

ユージンの焦ったような声が聞こえたが、すでにこちらの返答は決まった。

ならば、いくしかない。

「仕方ない、ね」

ビスケットの諦めたような声にオルガは笑った。
俺たちは、前に進み続けるしかないのだから。

『待たせたな。いいぜ、その要件呑んでやる。ただし、そのMSから下りてこちらまで来てもらおうか』

『お?早かったねー。はーい。りょうかーい』

『ミカ!悪いが、相手の武装が本当に解除されてるか確かめてくれ』

『分かった』

そう言うと、三日月は颯爽とバルバトスから下りて相手を見る。
相手はすでに武装解除を終えていたのか、三日月を見つけるとゆっくりと近づいてきた。
だが、足取りはどうにも危なっかしい。

「はい、これ。多分これで全部」

「分かった。じゃあその服脱いで」

「へーい。上着だけでいい?」

「うん」

一応銃を構えて警戒する三日月に対して気にも留めない少女は、あっさりと武器を手渡してきた。
ナイフに銃、そしてスタンガンが2丁。
他にも隠し持っていないか確かめるために、一応上着も拝借する。
全く抵抗をしない少女に三日月は首を傾げながらも、言うことを聞いてくれているのだからまあいいかと考えるのをやめるのであった。
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