鉄血夢 表ver

□血濡れの少女 4
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4話 対談

あっという間に武装解除が終わり、三日月は少女を連れてオルガ達の元へと戻った。
しかし、その様子を目の当たりにした面々は一様に口をあんぐりと開けている。

それはなぜかというと、三日月が少女を俵のように抱えて戻ってきたからであった。

「ミカ、どうしてそうなった」

オルガが困惑気味に尋ねれば、いつもと変わらない様子で三日月は少女を下ろしながら言った。

「あんまり来るのが遅いから担いできたんだけど、だめだった?」

「そーいう問題じゃねーっつの!」

「さらっと羨ましーことしやがってーこのぉ!」

ユージンとシノの叫びを軽く無視した三日月は、少女をその場に下ろしたらそのままオルガの元に近づいて、

「はい、これ。押収した武器。まぁあっちから差し出してきたものだけど」

「上着まで剥いたの、三日月・・・」

オルガの隣にいたビスケットが口元を引きつらせながらそう言った。
確かに必要なことではあるが、緊張感のないこの場ではあまりにも似つかわしくないものだった。

「ミカ、敵意はないんだな?」

念を押す様におう問いかければ、三日月はこくんと頷いた。

三日月の話によると、少女はあまり体力がないのか、足場の悪い場所で何度も躓きながらついてきていた。
その様子を見ていた三日月は、面倒になり相手の了承も聞かずひょいと俵抱きにするとそのままオルガ達のもとに走ってきたのだという。

俵だきされていた少女は三日月に下ろされてからただ黙ってこちらのやり取りを見ているだけだった。
時折、空を眺めるように上を向くが、それだけだ。

このまま外にいるのもどうかということで、とりあえず少女も連れて中に入ることにした。
クーデリアには三日月を護衛に付けて、対談は社長室で行うこととなった。
そう少女に話せば、

「いいよー」

と通信のときと同じ軽い口調で返事をされ、肩すかしをくらうのだった。
しかし、その口調とは裏腹に少女の表情は読めない。
何にも興味を示していないのか、眉ひとつ動きはしないのだ。
三日月でさえもう少し人間らしい表情をすると、ユージンたちは思った。
そのくらい少女は人形のように整った顔立ちをしていながら、無表情を貫いていたのだ。

オルガとビスケット、シノ、ユージン。
そしてクーデリアと三日月。
この6名を除いた他の皆は食事の時間として、食堂に向かわせることにした。

武装もしていない少女相手に男5人はいかがなものかと思ったが、事情が事情である。
致しかたないということでこの面子になった。

少女は文句も言わず、ただ付いてくる。
そうやって、社長室にたどり着いたオルガ達は、漸く対談の席に着くことになったのだった。

「さて、要件はお嬢、いやクーデリアとの対談で良かったな?」

「うん。とりあえず、無茶な要望聞いてくれてありがとうございました?」

「なんで、疑問形なんだよ!」

「緊張感ないね、本当に」

首を傾げつつ言う少女にユージンはツッコミを入れ、ビスケットはやれやれと肩を竦める。
三日月に至っては本当に興味がないのかひたすら火星ヤシを口に運んでいる。

そんな空気の中ではあるが、クーデリアはその少女をじっと見つめ続けていた。
自分とさほど変わらない少女だった。
そんな少女があのMSに乗り、ギャラルホルンという組織の中で生き抜いてきたのだ。
ここにいる彼らと同じように。
ならば、こちらも真摯に向き合わねばならない。

そのために、地球へと向かうのだから。

「私が、クーデリア・藍那・バーンスタインです。私にお話がお有りなのですね?」

目の前の少女から目を離さずそう言うと、少女はクーデリアの方に視線を合わせて、初めて表情を変えたのだった。




*****     *****




自分でも結構な無茶ぶりをした気がする。
あのおっさんに関してはどうでもいいが、その後に来たら、警戒するは当たり前だ。
しかし、おっさんの後についていくしか、あそこから脱出するのは不可能だったのだから、しょうがない。

私にできる選択はいつだって少ないのだから、その中でやれることをやらなければ。
こちらの応答に応えたのは、少し固い声を出した少年だった。
どうやら、彼らより上の大人たちは皆逃げ出したようだ。
どこの世界でもクズはいるものだと内心で思いながら少年と会話を続ける。

話も聞かずに攻撃を仕掛けてくるかと思ったが、さすがにそこまで短絡的ではないようだった。
それもそのはずか。
意外とクレバーな判断をする司令塔がいたから、先の戦闘もおっさんも破れたのだろう。
子供だからと侮るのはどこも一緒だ。

さて、そんな状況の中で、私の要件は通るだろうか。
まぁ武力介入は辞さないけど、なるべくはしなくない。
目の前のMSを見ながら心底そう思う。
まさか、

「ガンダムフレームとはね・・・・」

少し予想はしていた。
ギャラルホルンの軍事力は本物だ。
なのにも関わらず、それを凌いでみせたのは、偏にこの機体のおかげと言っても過言ではない。
それを駆るパイロットも恐らく常人離れしているのだろう。

一体どんな屈強な戦士が乗っているのやら。
そう思っておっさんの小型verを思い浮かべてしまい、しかめつらになる。
それだけはマジで勘弁してほしい。
あの暑苦しさに先ほど別れを告げたばかりなのだから。

相手はこちらが思った通りに頭の回転が速かった。
私の要件をすんなりと通すと、武装解除してこちらに来るように告げた。
了承して、暫しレヴィと離れることを心細く思いながら地面に降り立つ。
岩石地帯だからか、ものすごく足場が悪い。
筋力が衰えている今は、ちょっと辛い。

まぁ泣きごと言ってる場合じゃない。
これもトレーニングの一環だと思って歩くしかない。

そう思い直して自分に喝を入れる。
よたよたと歩いていると、いつ間にMSから下りたのか、パイロットがそこにいた。
銃を構えてこちらを警戒しているようなので、近づき手に持っていた武器を渡す。そこで気付いた。

こいつ、私よりちっさい!

想像とは違った小柄なパイロットに感激しながら言われた通りに上着を脱いで渡せば、そのままスタスタと歩いて行ってしまった。
遅れずに付いていこうとするのだが、如何せん足場が悪すぎる。
ちょっと歩いただけで肩で息をするようになってしまう。

筋力も体力も落ちている。
このままでは、ちょっとヤバいな。
ゆっくりと負担にならないように気をつけて歩いていると、目の前にふっと影ができた。
何かと思って顔を上げる前に勢いよく担がれた。

「うおっ!」

「うわ、何食べたらこんなに軽くなるの?遅いからこのまま連れてくよ」

この小柄なパイロットはさり気なくこちらをディスると返事も聞かずに走って行ってしまった。
体が上下に揺れて若干気持ち悪い。
ふと、パイロットの背中にあるものに気付いた。
それを認識して、体が急速に冷えていくようだった。

「阿頼耶識システム・・・」

ぼそりと呟いた言葉は彼には聞こえなかったらしい。
ただ、走る音のみが耳を打った。



あっという間に彼らの場所まで連れてこられた。
運んでくれたのはいいが、このパイロットは人の了承を得るということを知らないのか。
仲間がギャーギャー騒いでいるのも華麗にスルーしているのを見ると、どうやらそれが彼らの日常らしい。
なら、私が何を言っても無駄かと諦めた。

暫し、彼らのやり取りを無言で見る。
戦闘があった直後のはずだが、そこはやはり子どもというわけか。
この騒いでいる様子を見る限りは。

あ、運んでくれたお礼を言い忘れた。
まぁいいか。あっちが勝手にしたことだし。
にしてもいつ話ができるのだろうか。

風が騒いだ気がして、上を向けば空にはいつも宇宙にある星々がそこで輝いていた。
地上でみる久しぶりの星にただ胸が高鳴った。

ああ、綺麗だ。

心が安らぐ。

が、視線を感じたので顔を下げれば、そこには汚い少年たちとは別世界の少女がそこにいた。
というか、何故いると言った表現がお似合いなほど、高貴な出自だと丸分かりだった。

ああ、そっか、彼女が事の発端である、クーデリア・藍那・バーンスタインか。

綺麗な少女だった。
無垢なまま育てられてきたのだろうか。
いや、ただの無垢なお嬢様が独立運動になど参加はしない。
彼女は彼女なりの信念を持って今まで活動を行ってきたのだ。
意志の強そうな瞳でこちらを見続けている。
けれど、その目は逸らされ少年たちへと向けられる。
そこに宿った揺らぎは戸惑いだった。

それもそのはず。
ギャラルホルンに狙われたのは紛れもなく彼女で、彼らはとばっちりだ。
仕事とはいえ、さすがにギャラルホルンを敵に回すのがどれ程無謀なことか。
彼女は理解している。
それでも、彼女がここにいるということは、彼らに自分の命運を任せたのだろう。
中々勇気のいる決断だな。

だが、例え少年たちが盾になったとはいえ、生き残るのは不可能だったはず。
なのにも関わらず彼女は生きて、ここにいる。
そうだ、彼女は愛されている。

加護を一身に受けて、折れない信念の元、歩き続けようとしている。

この目で見るまでは信じられなかったことだ。

ならば、後は話して見定めるまで。

私のこれからを。その為にここまで来たのだから。
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