鉄血夢 表ver
□血濡れの少女 4
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連れてこられたのは社長室と思わしき場所だった。
さて、どこから話せばいいものやら。
「私が、クーデリア・藍那・バーンスタインです。私にお話がお有りなのですね?」
クーデリアは紫水晶の瞳に強い意志を秘めたまま、こちら見つめる。
さっきは暗かったから良く見えなかったけれど、とても綺麗な瞳だ。
紫水晶の石言葉は誠実、高貴、心の平和、か。
そんな紫水晶のような瞳を持った彼女は、きっとこれから過酷な運命に身を投じるのだろう。
その瞳に応えるように少し口の端を上げる。
って何か驚いたような顔をしてるな、ギャラリー。
その内の一人がポカンと口を開いた。
「あんた、笑えるのか」
「馬鹿なのか、君ら」
そこに驚いたのかと突っ込めば、どうやらお気に召さなかったようだ。
顔を真っ赤にして怒ってる。
なんかちょっと笑える。
つか、あのパイロットはなんでここにいるんだ。
あの顔全く話に興味ないだろ。
ずっと何か食べてるし。
何なんだ。
まぁ、いいか。
ギャラリーはほっといて話を進めないと。
「初めまして、クーデリア・藍那・バーンスタイン。私はリノ、リノ・セラスティアと言います。私がここに来たのはあなたの意志の確認です」
「私の意志・・・・?」
「単刀直入に聞く。あなたはまだ、地球に行く気があるか?」
目を細めて告げる。私の雰囲気が変わったことに気付いたクーデリアは目を見開いて固まる。ギャラリーと化していた奴らもただならぬ話になると察したのか、静かに事の成り行きを窺っている。
「・・・・もちろんです。それが、私のすべきことなのですから」
「じゃああなたが地球に行くことで起こる影響について話そう。まずはギャラルホルンについて。こっちは腐った連中がひしめき合ってるから、どんな手段を使ってでもあなたの命を狙ってくる。先の戦闘のようにね」
「それ、は。重々承知しています。だからこそ、彼らに鉄華団に護衛を依頼したのです」
「じゃあ、次の話。あなたが地球に行くことで、火星に住むすべての人々がどうなると考えてる?」
「・・・・私と蒔苗氏の会談が成立すれば、ハーフメタルの利権を獲得し、地球の経済圏からの独立が叶うと」
「ふうん。そんな夢物語が本当に叶うとでも?」
「!?」
「夢見がちな発想に付き合う義理はない。悪いけど、あなたが例え、それを手にしたとしても、独立は叶わないよ。ギャラルホルンがそれを許しはしないから。地球にあなたが辿りついて起こる未来は、−火星に住む人々の虐殺だ」
「なっ!」
「・・・どういうこと、なのですか・・・!?」
「ノアキスの7月会議のクーデリア。独立運動を収めた時代のヒロイン。そんなカリスマの塊であるあなたを利用としようとする人々は多い。そして、祭り上げられたあなたを神の如く崇拝する人々はあなたの言葉一つで何をすることも厭わない。ここまで言えば、聡いあなたなら分かるんじゃない?」
「・・・・まさ、か・・!?」
「そうだよ。すでに後戻りなどできない。あなたという影響力が存在している今は、どう転んでも民衆の暴動が活発化する。暴動が活発化すれば、それを理由にギャラルホルンが嬉々として軍事介入してくる。行くも地獄戻るも地獄とはまさにこのことかな」
クーデリアは自分の想像以上に事態が深刻化していることに気付いたのだろう。
沈痛な表情を隠しもせずにいる。
ギャラリーもクーデリアのただならぬ様子に、まずい状況だと感じているはずだ。
「おい、どいうことだ?」
これは通信で聞こえた声だ。
そうか、彼がここの司令塔というわけか。
薄々気づいてはいるようだ。
「簡単に言えば、君たちだけじゃなくて火星に住む人々が近いうちに全滅するってこと」
「はぁあ!?なんだよそれ!なんで、いきなりそんなことになるっつーんだよ!」
ギャラリーの内二人が大声で騒ぎ始める。うるさいな、叫べないようにしてやろうか。
ちらっとその二人を見て、物騒な考えが浮かんだ、その瞬間目の前にパイロットが割りこんできた。
ご丁寧に銃まで構えて。
「何を、する気?」
人のこと言えた義理じゃないけど、こいつも相当頭がいかれてる。
その目に宿るのは明確な敵意と殺意。
空気が凍るようなその目を向けられるのは、久しぶりだ。
二人とも一歩も引かずに、暫し、そこでにらみ合っていると司令塔の少年がパイロットに声をかける。
「ミカ、よせ。一応そいつは丸腰だ。それと話が進まなくなる」
「分かった」
一応離れてはくれたが、目は未だこちらを縫いとめるように睨んでいる。
お前と話してるんじゃないっつーの。
おおっとまたにらみ合いになるところだった。
話を戻そう。
「さっき言った通りだよ。もう、地球に行くか行かないかの問題じゃないんだよ。あなたがどんな選択をしようとも、そこには大勢の血が流れる。さっきのハーフメタルの利権についてだけど、まず地球の経済圏で戦争が起こる」
「せん、そう・・・」
「嘘だろ・・・」
「その戦争の舞台になるのは火星だ。4つの経済圏全てで争いが始まり、全てがここに収束する。独立の前に火星が滅ぶ方が先だろうね」
淡々と説明する私に皆一様に表情を暗くしている。
何処までが本当か分かっていないから表情だだけど。彼女は私の言ったビジョンが見えているだろう。瞳を彷徨わせながらも拳を握りしめている。
「犠牲を最小限に抑えるためにすべきことなら、予想がついたでしょ?」
そう促せば、彼女は思いつめるように何度か口を開いてそうして絞り出すような声で言った。
「・・・・私が、ギャラルホルン側と正式な契約を行う、ということですね」
「どういうことだ!」
司令塔の少年が叫ぶ。
寝耳に水の話だろう。
仕方ない分かりやすいように話をしてやろう。
「此度の一件で分かってるように、クーデリア・藍那・バーンスタインは狙われている。そのカリスマ性と民衆の心を掴む手腕に。ならば、いち早くそれを手中に収めたものが、今起きている大きな時代のうねりの中に確かな実権を握ることになるんだ。それは戦争も辞さないほどに」
「たった一人に、命運が握られてるとでも言いたげだな」
「私はまさにそういうことを言ってるんだよ。そして、その戦争を回避する事が今できる最小限の被害だ。それにはギャラルホルンとクーデリア・藍那・バーンスタインとでお互いに手を結ぶという契約が必要なんだよ」
「そうか、ギャラルホルンはあくまで治安維持組織。クーデリアさんの支援をするという形を取れば簡単にバックを取れる・・・!そして、地球に彼女を連れていけば・・・」
「地球の経済にも干渉できるようになる、ってことか・・・!」
「そういうこと。ギャラルホルン程の軍事力があれば、表だって戦争を起こすわけにもいかない。結局他の経済圏は煮え湯を呑むことしかできないだよ。そして、彼女を手に入れたギャラルホルンは、一組織から大規模な影響力と権限を持ち合わせることになる」
できたシナリオだろって付け加えれば、彼女以外から厳しい視線をもらった。
私は本当のことを彼女に言いに来ただけなのに。
「だから言ったでしょ。夢物語だと。どんな道を歩いても、恐らく辿りつくのは火星の破滅。ここまで理解できたと思うからもう一度聞く。まだ、地球に行く気はあるか?」
私の言葉に彼女はびくりと体を震わせた。
小さな小さな体だ。
たった一人の少女に与えられた運命は、辛く厳しいもの。
すでに戦火の真っ只中にいる彼女に、どんな選択肢があるというのか。
ここまで世界に愛された少女はいないというのに。
ここで、彼女が諦めるのも一つの選択。
彼女がどんな選択をしようと私の目的は変わらない。
けれど、彼女がどの道を選ぶかで私の目的にたどり着く道も変わるのは確かだ。
さぁ、私に、どんな道をみせてくれるというの。
クーデリア・藍那・バーンスタイン。