鉄血夢 表ver
□血濡れの少女 5
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5話 決意
重苦しい静寂が支配する部屋の中で、私はひたすら彼女の言葉を待った。
「あなたの話は、分かりました」
静かにそう言った彼女はもう震えていなかった。
「私が、どれ程無知で愚かだったのかも。ここに来なければ、見えていないものも多く在りました。何も、分かってなど、いなかった・・・!」
彼女の独白をただ黙って聞き続ける。
そうだね、愚かだったと思うよ。
本当に。
まるでピエロのように踊らされ続けていたのだから。
自分の意志がいつの間にか、大人たちにいいように動かされているという事実は。
「私が、目指したのは火星の子どもたちの、人々の幸せです。そのための地球行きで・・・」
震えてしまう声に彼女は一旦そこで言葉を切った。
後に続く言葉が、震えないように目を閉じて必死に心を宥める彼女は、とても誰かの死を背負っていけるものではなかった。
ここにきてやようやく守るためには犠牲がつくと知ったのだろう。
頭では分かってはいても現実は想像以上に辛い。
内心でここまでかと諦めにも似た衝動が体全体を支配した。
分かってはいた。
期待して裏切られるのには慣れている。
これも目的のための手段の一つだ。
彼女がだめならば、その次を探すまで。
そう思っていたはずだった。
しかし、次の彼女の言葉には耳を疑った。
「そう、です。幸せを勝ち取るために、私は行動をしてきたのです。私は、私の行く道で必ず皆さんを幸せにしてみせます!それが、私の戦いなのですから・・・・!」
いきなり話しだした彼女に茫然と彼女を見つめていると、彼女は閉じていた目を開けて、紫水晶の瞳でこちらを射抜く。
次第に力強くなる言葉の端々に彼女の決意が見て取れた。
何にも染まらない、その高貴なる色は。
濁ることもなくただひたすらに純粋だった。
私が彼女の瞳に見惚れ、言葉を失っていると彼女は再び話し始めた。
「お話、ありがとうございました。私にはまだまだ知らなければならないこと、勉強しなければならないことがたくさんあります。今はまだ、その糸口すら見つけられていませんが、それでも私は諦めずに戦い続けます。彼ら、鉄華団と共に!」
暗にそれはギャラルホルンとは手を結ばないという宣言だった。
彼女の宣言に戸惑うような表情をする面々の中で司令塔の少年とミカと呼ばれたパイロットの少年だけが、変わらずにいた。
司令塔の少年が口の端を上げてクーデリアに話しかける。
「つまり、引き続き俺らを指名してくださるということでいいですか?」
「はい。地球までよろしくお願いします」
少年に向き直り、深々とお辞儀をする彼女らのそんなやりとりに私はただ茫然としていた。
内から湧き上がる衝動に私は。
「ということだが、あんたはどうする、・・・・つもり・・・・」
少年が驚きのあまりに目を見開いているのが見えた。
しかし、そんなことを捨て置くほどに私は歓喜に内震えていた。
ああ、良かった。
これで、これで私の道は開かれた・・・・!
目的の場所に!地球へと!
「ふ、ふふ・・・ふふふ・・」
「お、おい・・・?」
「あはっははははっはははは―――がはっごほっ・・・ふはは、はぁ、はぁ、はぁ、」
「ちょ、ちょっと大丈夫ですか?」
狂ったように笑い声をあげる私にどん引きしたような顔をする面々。
その中のふくよかな少年が一応形ばかりに声をかける。
その言葉すら耳に入らず、私は一人で呟いていた。
「面白いね!ここまで絶望的な状況でも、その信念を曲げないなんて!その高潔さは、一体どこで培われたというのか。ふふふ、あははははっははは、はぁ、はぁ、」
「この人、壊れた?」
「・・・・かもしれね−な」
私のただならぬ様子に言葉も届かないと判断したと後から聞いた。
それぐらい私は嬉しくて周りがみれなくなっていたみたいだ。
しばらくその状態で発狂していたが、何の前触れもなくピタっと止まった。
「げほっごほっ・・・・ふー・・・疲れた」
「こんだけ騒げば疲れるだろうよ・・・」
どうやら私が落ち着くまで待っていてくれたようだ。
辟易したような顔で全員がこちらを見ている。
クーデリアは心配そうに私を見ていたけど。
こほんと咳払いをして深呼吸をする。
よし、落ち着いた。
じゃあ今度はこちらの目的を話すとしますか。
「えーと、とりあえず発狂しててすみません?」
「だっから何で疑問形?」
「いいからさっさと本題に入ってくれ」
うんざりしたように告げる少年たちに私は笑う。
目的に近づいた私はものすごく気分が高揚していたのだ。
「クーデリア・藍那・バーンスタイン。あなたの決意は分かった。あなたの意志を汲んで私はあなたの護衛をしよう」
「「「「は?」」」」
「え?それは、一体どういうこと、なのですか?」
突然の私の台詞に目を白黒させる。
私の真意を測りかねてるっぽいな。
そりゃそうか。
順を追って話そうにも全部は話せないし。
うーん。
「つまり、ここにいる少年たちと同じようにあなたを地球まで送り届けるよってこと」
「いや、だからそれは俺たちが請け負った仕事なんだよ!ギャラルホルンは引っ込んでろ!!」
「おい、落ち着けユージン!」
「ギャラルホルンは関係ないよ。私は彼女の意志を聞いて、私の判断で護衛するって決めたからね」
「はぁ?」
非常に困惑した空気が伝わってくる。
うーん。
どうしたもんか。
あ、こうすれば分かるかな?
私はそばに置いてあった上着を手に取ると、ギャラルホルンの紋章の部分を思いっきり引き裂いた。
突然の行動に唖然としてこちらをみる少年たちに向かってにこっと笑って言った。
「ほら、これであいつらと私は関係なくなった」
名案だ!と思ってそう言えば、司令塔の少年が頭を抱えているのが見えた。
本日何度目何だろう。
パイロットは変わらずになんか食べてる。
さっき発狂したせいで急激に肩の荷が降りた気がした。
何だかんだいっても緊張してたらしい。
そのせいか、誰かが食べてるのみるとおなかがすく。