鉄血夢 表ver

□血濡れの少女 6
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第6話 日常

お腹が空いた。
というか、あれ?いつ間にか眠ってた。
昨日何してたんだっけ?ぼんやりと辺りを見回すと、朝日に照らされ金色に輝く何かが見えた。

目を凝らせば、それは寝ているクーデリアの髪の毛だったと気付く。
なるほど、昨日はクーデリアに色々事情を説明して、その後感情制御ができなくなって強制的に落ちたんだっけ。
寝ている二人を起こさないようにそっとベットから抜け出す。

うーん、ここまで来た記憶がないから何処にいるのか分かんないけど、まぁ歩いていれば分かるよね。

「うわあっ・・・」

朝日が気持ちいいっ。

体をのびーっと伸ばせば少し凝った筋肉がほぐれる音がする。

あ、そうだ少しは動いて体力と筋力をつけよう。
じゃあレヴィのとこまで歩くとしますか。

建物の外をぐるりと回りながら空を見上げる。
まだ太陽がそこまで上っていないが、それでも照らされる光景は夜と比べて別世界のように色づく。
全てを芽吹かせるような太陽のエネルギーに私もパワーをもらう。

「ん〜〜!光合成したい!」

葉緑体がないから駄目なんだけど、できたら絶対気持ちいいよね。
鼻歌を歌いながら歩いているとようやくレヴィの姿が見えてきた。
どうやら、反対側に出てしまったみたいだった。

昨日と同じく足場の悪い岩石地帯をゆっくり進んでいく。
ううー頑張れ、もう少し!
レヴィのとこに着くころには太陽も完全に姿を表していて、私は汗だくになっていた。

はふー。

レヴィは昨日の内に色々設定しておいた。
そのおかげか誰にも触られていないようだった。
あーでもどうやって上ろう。
宇宙空間ではないので浮かんでいくわけにはいかない。
だが、上るにも筋力が。

「ごめんね、レヴィ。こんなとこに一人にしておいて。しかも登れないとか、情けなすぎる」

レヴィの足元にちょこんと座って見上げる。
ずっと外にいたレヴィはとても冷たかったが、火照った体にはちょうど良かった。
目をつぶって体を預ける。

「レヴィ。昨日ね、ようやく一歩進めたんだよ。まだまだ、序の口だけどさ。だから、一緒に地球に行こう。火星も面白いけど、地球も面白いんだよ。皆元気で、いつも傍にいてくれるんだ。・・・・また、あの場所に帰れるかな」

風が吹き、木々が囀ずる。

太陽の光を浴びて海はキラキラと輝き、美しいコントラストを描く。

鬱蒼と繁っていた木々の間から溢れるような光。

目に映る全てがかけがえのない宝物みたいに大事で、愛おしかった。

「弱気になっちゃだめだね。帰れるかなじゃない、帰るんだ。そのためなら何でもする。・・・・レヴィ、私に力を貸してね」

いつだって何も言わずにそばにいてくれるあなたがいれば、私はきっと大丈夫。
反射した光でレヴィが頷いているように見えて嬉しかった。

しばらくそのままで居たけれど、さすがにお腹が空いた。
昨日はパイロット君に貰ったよく分からないドライフルーツ一つを食べたんだっけ。
今日は何かもらえないかな。

「またあとで来るね」

レヴィにそう言って食べ物を探しに建物まで戻るのだった。

また汗だくになりながら建物まで戻ると、すでに何人かが起きだしていたようでちらほらと人影が見えた。
私より小さい子がいっぱいいる。

そりゃそうか。火星の経済は地球に全て管理されている。
こうでもしなければ食べていくことなんてできないだろう。

その背中に見える突起がそれを物語っている。

「私も、似たようなものだけど」

それでも必死に生きている。

私も彼らも。

生きにくいのにそれでも愛おしく思う心がなくならない、この星で。

これから朝ごはんだと言いながら走って行く子どもたちについていくと、食堂らしきところに出た。
あ、炊事場にいるのって昨日社長室のギャラリーにいた人だ。

「あのー」

「あれ?もう起きてたんですか?というかよくここまで来れましたね」

声をかければ驚いた顔をしたのも一瞬で、すぐに人のよさそうな表情になった。
大らかな人だな。
見た目も含めて。

「お腹すいちゃって」

正直に言えば、昨日のことを思い出したのかその人は気まずそうに笑った。

「今から作るんですよ。少し待っててもらえますか?」

「だったら、私も手伝う。働かざるもの食うべからずって言うし」

私の申し出に驚いたような顔をした大らかさんはありがとうといって笑った。
よく笑う人だな。

炊事場にたち食材を確認する。
ほうほう。
面白いな。
食材とか微妙に味が違うのか。
環境が違えばそうなるもんな。
よし、これは面白い。色々作ってみよう。

「あんまり危ないものは作らないでくださいね・・・」

私の笑みを見た大らかさんは苦笑いをしながら釘をさしてきた。

どんな凶悪そうな面してたんだろう、私。

ここでは、じゃがいもを使ったポタージュが主流らしい。

ふむ。

まずはそれを作るか。
あ!トマト発見!ならポタージュじゃなくてボルシチにしよう。

お肉とか高価なもの入れなくてもなんとかなるだろ。
幸い調味料は種類が豊富だ。
よしよし。

でもこれだけじゃ物足んないかな。
主食になるものがないしなー。
お?とうもろこし粉がある。
これでパンでも作ってみるか。
確か、マントウっていう饅頭みたいなパンがあったな。
よし、これとボルシチが朝ごはんだ。

「そうだ、自己紹介してなかったよね。僕はビスケットよろしく」

「あーよろしく?」

「相変わらず疑問形なんだね・・・」

ユージンが三日月と似てるっていうの分からなくもないかもとビスケットは苦笑いしていた。
三日月って誰だ?
名前の響き的にあのパイロットかね。
まぁいいや。
それよりもご飯だ!





*****     *****






「うおおお!?なんじゃこりゃあああ」

「まぁボルシチですか?」

「ぼるしち?」

「ええ、地球の北方でよく食べられていた煮込み料理だと聞いています」

「へー。いつものスープと味が全然違うね」

「うんめええええええええええ」

「うっせーぞシノ!!うわっこっちにとばしてくんじゃねええええ!!」

「シノ・・・。全くもうしょうがないな」

「すっげー!こんなの食べたことねー!」

「団長団長!こんなうまいもん食っていいんすか!!」


エンドレスリピート(割愛)


「わーお」

多めに作ったつもりだったけど、食べ盛りたちを嘗めていたようだ。
ていうか私が食べる分がない。
仕方ない、追加で作るとするか。働かざる以下略だからね。
ちなみにビスケットにはパンを焼いてもらってる。

「あんた料理できるのか」

「うん。あっちにいたころは雑用とかで色々やらされてたから」

黙々とジャガイモを剥いては切ってを繰り返していたら、司令塔の少年に声をかけられた。名前はオルガというらしい。
こっちもしっかりと自己紹介してくれた。

「この仕事の方が好きだったんだけど、あんまりやらせてもらえなかったな」

「なんでまた?これだけ作れればその方がいいじゃねーか」

「私みたいなのが作った料理は口に合わないんだと」

「・・・・悪い」

「クソみてーな理由だろ。ま、彼らは私たちには腹の足しにならないようなもので自らを肥やすことに夢中なんだ」

「ふっはは!違いねーな」

オルガは私の皮肉に口を開けて笑った。
ここにいるのは子供ばかり。大人は数えるほどしかいない。
そんな状況だと言うのに彼らは元気だ。
仲間がいるから、か。
確かにそれは悪くない。

私には、分からないけれど。




朝は戦場と誰かが言っていた。誰の言葉かは忘れたが、その通りだと思う。
一体どれだけのジャガイモを剥いたのだろう。
ビスケットに止められなかったら一心不乱に剥き続けていただろう。

「やっと食べられる・・・」

「ってお前それだけで足りるのかよ!」

食べ終わって食器を配膳台に持っていこうとしていたユージンが私の器を見ながら眉をしかめた。
因みにユージンは自己紹介していない。
一緒に食事の支度をしていたビスケットと共にご飯を食べているので、ビスケットが教えてくれた。
こいつ会う度キャンキャン吠える犬みたいだな。

「君らが食べ過ぎなだけだよ」

「いや、リノそれはさすがに少なすぎるんじゃ・・・」

料理場という戦場を経験したビスケットに私を名前で呼ぶようにいった。
こっちも呼んでるんだから当然だよね。
快く了承してくれるビスケットは本当に大らかでいい人だと思う。
見た目も含めて。

そのビスケットですらそう言ってくる。
んーとはいえ、これ以上は入らなさそうなんだよな。

「そうかな」

「うん。あんたはもっと食べたほうがいいよ」

そんな風に3人で話してると、今度はパイロット君が配膳台に食器を運んできた。

「えーと、」

しかし、名前が思い出せない。
思わずビスケットに目を向けてしまう。
すると、ビスケットが応える前にパイロット君が口を開いた。

「三日月。三日月・オーガス」

おお、そうだ。
そんな名前だった。
さすがにいつまでもパイロット君じゃかわいそうだな。

「三日月ね。覚えた。まぁ今はこれ以上入んないから徐々に増やしてくよ。筋力付けないとだし」

向き直ってそう言えば、三日月はきょとんとした顔で首を傾げる。

「無理じゃない?」

「即答すんな!」

こいつ毎回私をディスりにきてやがる!

何なんだ!

自分に正直かこの野郎。

恨みがましい目で三日月を睨めば、若干不機嫌になった三日月が徐に手を掴んできた。

「だってさ。ほら、これで力入れてみなよ」

「言ったなー!ぐううううううう・・・ぜえ、ぜえ、ど、どうだ!」

完全に舐められている。
多少むかついたので、今に見てろと力いっぱい握ってやったのだが。

「え?何が?」

「び、微動だにしないだと・・・」

全くダメージを受けてないような顔でこちらを見ている三日月に思わず引きつった顔になった。
絶望まではしないけどさ、さすがにこれは分が悪い。

「は?今本当に力入れたの?」

「ふぬうううううくやしい」

「仮にも女がふぬぬうって・・・」

呆れたような顔で傷口に塩を塗ってくる三日月に、悔しさのあまり顔が歪む。
後でぜってー泣かしてやるからな!!
それとユージンは一言多い!

内心で負け犬の遠吠えみたいな台詞を吐いていると、私の食事が全く進んでないことに気付いたビスケットが手を叩いた。

「三日月、リノ!それは後からにして。リノもちゃんと食べる」

「「はーい」」

ビスケットってお母さんみたいだなと思ったのは内緒である。



ご飯を食べてさてどうしよう。
話の途中で眠ってしまったので、私の処遇はどうなっているのだろうか。
炊事場の後片付けをしていると、ビスケットに今後の話をするからと会議室に呼ばれた。

大人しく付いていけば、そこには見慣れないおっさんが二人とオルガ、ユージンがいた。
近くにクーデリアとそのメイドも一緒だった。

「昨日は話が途中になっちまったな。こっちで話したんだが、あんたがもうギャラルホルンじゃないっていう話は本当だな?」

「うん。あそこにはもう戻らないね」

「んでお嬢さんの護衛をするっていうなら、俺たち鉄華団に入らないか?もちろん強制はしねえ」

「ふうむ。目的は言わないけど、それでもいいの?」

「情報に嘘がなけりゃ、構わねえ」

成る程。
後は私の意志に委ねるということですか。
地上にいる間は特に不自由しないけど、地球にいくなら宇宙に出なきゃ行けない。
そうなれば単独で護衛するのはきついか。
オルガも頭の回転はいいほうだ。
悪いようにはしないだろう。
なら、折角の申し出だし、入れて貰いましょうかね。

「じゃあ、よろしくお願いします?」

「早いな。まぁこっちが言い出したことだ、これからよろしく頼むぜ」

オルガが差し出してきた手を握る。
はいはーい。

それはいいんだけど、さっきから何か企んでそうなこのおっさんは何なんだ?

こっちみんな。

これで私は正式に鉄華団の一員となった。
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