鉄血夢 表ver

□血濡れの少女 7
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第7話 襲来

私が鉄華団に入って数日たった。
この間に何をしてたというと主に皆の食事を作っていた。まぁ嫌いじゃないんだけど、レヴィの整備したいんだよな。食事の用意してると中々時間が取れない。

それにクーデリアの護衛をすると言っておきながら何もできてない。
あーもー誰か炊事係変わってくれないかな。
ここの人達とんでもない量食べるからそれだけでお腹いっぱいになっちゃうし。
当面の目標である筋力は当分付きそうにない。

今日のお昼は、ジャガイモととうもろこし粉を使ったチヂミである。
これならジャガイモさえ大量に剥いておけば何とでもなる。
というか毎回じゃがいもを剥いている気がする。
大量にあるから仕方ないけど。
スープは野菜スープにするか。コンソメで味付けしてさっぱり味にする。
後は主食だが、私は発見した。
そう、隅に置かれた大量の大麦を!!これで麦ごはんを炊く。多分地球以外では麦を食べるっていう習慣がないんだろうな。
じゃあなんでこんなにあるのかと思えば、スープにして食べてたっていうから驚きだ。
しかもそんなに好評でもなかったらしい。いや、スープにしてもおいしいはずなんだけど。ちゃんと料理できる人いなかったんだろうな。


そんなわけで恐ろしく食べる彼らに向けて麦ごはんを大量に炊き、その横でジャガイモをひたすら剥く。
さぁどんとこい。

「リノが炊事を担当してくれるから、随分助かってるよ。やっぱりご飯は温かい方がいいからね」

「そうだね。それは同感」

ビスケットは自分の仕事もあるだろうに、ご飯が近くなるとわざわざ手伝いに来てくれる。
やっぱりおかんだ。
因みにクーデリアも手伝ってくれている。
とはいえ、包丁さばきが危なっかしいので混ぜるとか簡単な役目をお願いしてる。
ビスケットがいるときは目を光らせるように頼んでいる。
にしても向上心あるよねクーデリアって。

「リノ、今日のこれは何?」

「地球のごく一部で食べられてた料理でチヂミっていうんだよ」

「ふーん」

三日月に料理の説明をしながら、鍋に集まる子どもたちにスープを分ける。
ちょっと塩分多めなお昼となってしまった。
一応野菜は入ってるけど、塩を使いすぎた。
その辺はやっぱり適当になるな。

「うわー今日のご飯もうまそう!」

「リノねーちゃんありがとう!」

「どういたしまして。ちゃんと噛んで食べろよ。おかわりならいっぱいあるんだから」

「「はーい」」

元気な子どもたちを見て目を細める。
どんなに小さい子でも後ろには阿頼耶識が付いている。
元の経営者がどれほどグズだったかが如実に表れている光景だ。
ここにいる子どもたちは運が良かっただけ。それほどリスクのある手術だというのに。

ちらっと近くにいる三日月をみる。
背中から飛び出るそれはここにいる誰よりも多い。
生きるには力がいるとはいえ、その精神力と耐久力には恐れ入る。

「おかわり」

「ほんとーによく食べるね」

私より小さいくせにと内心でごちて三日月の椀を受け取る。
私の内心を知らない三日月は誰かを探す様にきょろきょろとあたりを見回す。

「はい、どうぞ。・・・・誰か探してんの?」

「うん」

「ふーん」

話が続かない。
ここ数日で分かったけど、こいつ興味ないと会話をする気がないらしい。というか今は探す方に意識が向いてるからか。まぁいいや。別にどうでもいい。


慌ただしくお昼の時間が終わる。
あーレヴィのとこにいきたいなー。
この後少し時間が作れるし行くか。後片付けを終わらせると外にでる。
レヴィは今鉄華団の本拠地から少し離れたところに置いてある。

レヴィを入れておく倉庫がないのだ。
戦闘をしたわけでもないから装甲自体に問題はないということでこーなった。
外ではバルバトスの調整をしているおやっさんと三日月、オルガとビスケットがいた。
この間の戦闘で壊れた部位の整備をやってるようだ。それを尻目にてくてくと歩いてレヴィの元に向かう。

すでに高い位置にある太陽に照らされると少し歩いただけでも汗だくになる。
けれど、火照った体を冷やすような風が心地よいと感じる。

んー気持ちいい。

ここでしばらく日向ぼっこしてようかな。

そんな昼下がりだった。
ここ数日何もなくて気が緩んでいたんだろう。
突然、大気の震えを感じた。

何が起こったのか一瞬分からなかった。
しかし、次の瞬間、


ビービービー


とレヴィが警告音を発した。
これは、エイハブ・ウェーブの反応!!

分かるや否や私はオルガ達の元に走った。
外で整備していた三日月とおやっさんが私を見つけて手を振っている。
どうやらまだこっちでは観測されていないらしい。
私のただならぬ様子に首を傾げているだけだ。
全力で走ってきたせいで息が上がっている。
話すこともままならず肩で息をしていると、


ビービービー


「監視班から報告!エイハブ・ウェーブの影響を観測しました!!ギャラルホルンのMSがこっちに近づいています!!その数・・・10機!?」

どうやらこちらでもエイハブ・ウェーブの影響を捉えたらしい。
顔を上げて三日月を見れば、私の言いたいことを察したのだろう。
こくりと頷きおやっさんに声をかける。

「おやっさん、バルバトス出せる?」

「出せねーことはねえが・・・・三日月、おめー死ぬぞ」

「かもね。でも、やらなきゃどうせ殺られる」

淡々と応える三日月におやっさんは苦々しい顔をした。
さすがにガンダムフレームとはいえMS 1機と10機じゃあ相手にもならない。
わざわざそんなに持ち出してくるとは、狙いはクーデリアだけじゃないな。

予想以上に早い動きだしにあっちが相当焦っていることを察する。
監査官が付く前に私を連れ戻そうという腹か。
あわよくばクーデリアもって考えてそうだ。

そんなことを考えていたらオルガ達も外に出てきた。
今にもバルバトスで飛び出して行きそうな三日月を押しとどめるので必死だ。

「待て、ミカ!10機相手じゃあ分が悪すぎる。対策を練るぞ!」

「っつったってどーすんだよ!!どう対策したって10機にはかなわねえ!」

その様子をクーデリアが唇を噛みしめてみていた。
血が流れることはすでに覚悟しているだろう。
けれど、自分には何もできないことが悔しいんだ。
こっちとしては守られていてほしいんだけど、そうもいかないんだね。
その勇ましい姿はただの無力に打ち震えるだけの少女ではない。

「私を差し出してください!そうしなければ、」

「それじゃあ俺らの筋が通らねえ。まだ、ここで終わるわけにゃいかねえんだ!!」

そんな話をしていた時だった。
突然砲弾の音とともに通信が入った。

『こちらはギャラルホルン火星支部部長のコーラル・コンラッドである!クーデリア・藍那・バーンスタインとこちらに所属している部下リノ・セラスティアの身柄の引き渡しを要求する!要求を飲まなければ、MS10機による武力介入を行う!』

なんで私がここにいるって確信してるんだか。
まぁ一応クランク二尉の後を追ったっていう証言があったんだろうけど。
にしても思い切ったな。あんだけ保身を考えている奴が。
それほどクーデリアと私の存在は厄介ってこと。

『聞こえているはずだ!ねずみども!!さっさとあのくそがきをさしだせえ!』

ぷつん。

久々に聞く、グズの声に憎悪が湧きあがる。
この感じは本当に久しぶりだ。
あっちにいた頃なんてそれが日常だったはずなのに。

「オルガ、他の奴ら全員下がらせろ。私がいく」

「何を・・・!」

自分でも久しぶりに出た腹の底から冷え切った声だった。
怒気が臨界点を突破しているが、頭は冷静だ。
あそこにいるのは、すでに見限った腐の温床。
ならばかけられる慈悲などとっくの昔に過ぎ去った。
据わった目で相手のMSを睨みながら怨嗟の念を纏う私にオルガや周りにいた奴らが水を打ったように静かになる。

「一人でやる気?」

緊迫した雰囲気の中でも三日月は変わらなかった。
紺碧の瞳をこちらに向けてただ問いかける。
その目に映る自分はきっと憤怒の表情を隠しもせずにいるのだろう。
まぁ、奴らを殺るためならばこの身がどうなろうと構わない。

「あいつ等の狙いは私とクーデリアだ。ただ的になる奴は足手まといになる」

「俺が的になるってこと?」

嘗められていると感じたのか三日月は不機嫌そうにいった。
阿頼耶識のおかげで的にはならないだろう。
けれど、戦場に出られたらそれはそれで面倒だ。
私が、こいつを回避しつつ戦うなんて器用な真似はできない。
ならいっそ出てこないでほしい。

「そういってる。オルガ、もう一度だけ言うぞ。全員下がらせろ。私の怒気に当てられたくなかったらな」

「・・・・本当に一人でやれるんだな?」

「おい、オルガ!!」

「くどい。ここが地上である限り、私に負けはない」

それだけ吐き捨てるように言えば、私は岩石地帯の方へと歩いて行った。

私には皆がいる。

だったら何だってできる。

あのうるさい小蝿を黙らせることだって。

『貴様らっ!いつまで無言を貫いているつもり・・・』

耳障りな音がなる。
いい加減イライラするな。

『うるさいな。そこでキャンキャン吠えていると、犬とさほどかわりないぞ、コーラル』

『き、さま〜!!やはり抜け出していたのか!!このグズが!貴様の所有権は私にあるのだぞ!!』

『その所有権が未だにお前の元にあるとでも?』

馬鹿にしたように挑発すれば、ようやくそのことに思い至ったのか声が動揺し始めた。

『な、にを・・・貴様まさか!!』

『それすら確認していない下種がよくそこまで成り上がったな。さて、クーデリア・藍那・バーンスタインを渡せだっけ?お前らみたいな格の違いも分からん雑魚に渡すものなどないな』

挑発を込めてそう言ってやれば、罵詈雑言を吐いている声が聞こえた。耳が腐るからやめてほしい。

『お前ら、何もかもが気に入らないんだ。ここから生きて帰れると思うなよ』

ドスの効いた声でそう言ってやれば、コーラルの息を飲む声が聞こえた。

挑発はもういいか。

「我の元に来い!レヴィアタン!!」

ポケットに入れていた小型端末を握りしめ叫ぶ。

さぁ蹂躙する時間だよ、レヴィ。
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