鉄血夢 表ver

□血濡れの少女 8
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第8話 リノ

時間をくれるとオルガはいったので、とりあえずぼろぼろになった服を着替えるために部屋へと向かう。
傷の手当ては、まぁほっとけば治るからいいか。
あ、もちろん動けないので三日月が。
そう言えば、着替えなんて持ってないな。
どうしようか。

「リノ、良ければ着替えをお貸ししましょうか?」

「え?いいの?」

「ええ、もちろんです!そのままでは不便でしょうし。では、私の部屋に参りましょうか。お風呂にも入った方がよろしいでしょうし、傷の手当てもしませんと・・・・」

フミタンに手伝ってもらいましょうとクーデリアは少し砕けたように笑った。
意外と元気な私を見て胸を撫で下ろしていたもんな。
きりっとした顔か思いつめた顔しか見てなかったからそんな普通の年頃の女の子みたいな笑顔は初めて見た。
可愛いな。
クーデリアが皆に愛されてるのが良く分かる。
見てるこちらが楽しくなってくるようなそんな優しい空気にしてくれる。
ふと、三日月を見れば、クーデリアの方を気にしているようだった。
こんな可愛い顔されちゃ、気になっちゃうもんかね。年頃の男の子は!

「で、あんたの部屋に行けばいいの?」

「あ、はい!お願いできますか?」

「うん」

いや、三日月に限ってはそうでもないな。
どうせお腹でも空いたんだろう。
きっとそうだ。ずっと片手で私を抱えてもう片手で何かを食べてるし。



部屋に着いてからは怒涛だった。
動けないのをいいことに丸洗いされるわ、着せ替え人形にされるわ。
つ、疲れた。
手当ては遠慮したけど。どうせもう塞がりかけている。
それを見た二人は驚いていたけど。
しかし、着替えに関してはクーデリアが嬉しそうにしてるから、何も言えなくなってしまった。

「そう言えば、リノ・・・肌の色が」

「え?ああ、これか。大丈夫だよ。時間がたてば元に戻るから」

クーデリアが言いづらそうに私の肌を見ていった。
少しずつ薄くなっているけど、まだ赤黒い。
まるで自分が痛そうな顔でこちらを見るクーデリアに、どうすればいいか考える。
あんまり心配されるのに慣れてないから、これで合ってるか分からないけど。

「心配してくれて、ありがとう」

たどたどしくそう言えば、少し驚いた顔をしてクーデリアは花が咲くように笑った。
わーかわいい・・・・ってむずがゆい、やっぱりむずがゆいよ、これ!

そうやってたら結構な時間が経っていた。
少しは動けるようになったので、クーデリアに手伝ってもらいながらオルガ達の元へ向かった。
何故か食堂にいるらしい。
食堂に向かえば、主に年長組がそこにいた。
あーここにしたのは、私とクーデリアのご飯のためか。

「おーおーおめかししちまって!何だ?唐突に女にでも目覚めたか?なあ昭弘!」

「お、俺は別に」

「シーノー!茶化さない」

「にしても、結構待ってたぜ?女ってのは身だしなみ整えるのに時間取るんだな。いいご身分だぜ」

「二人ともご飯あるよ」

「まぁ話は食いながらでもしようじゃねーか」

口々にそう言われれば、誰に反応すればいいのやら。
しょうがない。
とりあえずお腹は空いているのだから、遠慮なく頂きましょうか。

「ごちそうさま。で、何処から話せばいいやら」

ぶっちゃけあんまり説明が得意ってわけじゃない。
そもそも、ここに来るまでにこんなに人と話すことってなかったし。
困ったようにオルガを見れば、なんとなく察してくれたのか片方の目を閉じて口を開いた。

「じゃあこっちから聞きたいことを聞いていく。まずはあんたが狙われた理由だ」

「ああ。それはこれを見た方が早いね」

私はそういって首から下げていたものをオルガに渡した。無言で受け取ったオルガが中身を確かめると、驚いた表情になった。

「おい、これって・・・・ヒューマンデブリの所有権じゃねえか」

「そうだよ。私はあの組織のヒューマンデブリだ。幼い頃に捕らえられて、そこで人体実験の道具として買われたんだ」

「どんだけ腐った組織だよ!ヒューマンデブリで人体実験なんて・・・」

「だが、ヒューマンデブリにしてはらしくないな。取り返しに来るほどなのか?」

昭弘と呼ばれていた暑苦しい奴が厳つい表情で話に混ざってきた。
こいつもヒューマンデブリだったのか。何となく察した。

「私が単なるヒューマンデブリじゃないからだよ。人体実験の道具って言ったでしょ。あそこではずっと前からある実験が試されててその成功例の唯一が私なんだ」

「なんだよその実験って?」

「・・・・阿頼耶識システムについて、どの程度知ってる?」

これはどこまで話していいものか。これ以上話せばあの組織の暗部に関わることになる。
だからとりあえず前提の知識として阿頼耶識について聞いてみた。けど、反応は芳しくない。

「あったら便利ってとこぐれえか?」

「馬鹿かおめーは!確か、あれだ空間認識力がどうとか・・・」

まぁそんなもんか。こんな場所で使われてるのだから。
反応を見ながらどうしようか迷っていると真剣な表情でクーデリアが語り始めた。

「厄祭戦時に使われたのが阿頼耶識システムという外部取り付け型の有機デバイスシステムです。本来の用途は宇宙での作業機械の操縦用の為に開発されたと聞いたことがあります。これは、ナノマシンを介して脳神経と機体のコンピューターを直結させることで、脳内に空間認識を司る器官が疑似的に形成され、通常は視覚的に得られる情報が脳に直接伝達されることで、機械的プログラムに左右されない自由な操作が可能となると・・・しかし、」

「そう。そうした歴史の末開発された阿頼耶識システムは今では組織によって非人道的なシステムとして禁止されている。けれど、阿頼耶識システムがもたらした恩恵を捨てるまでには行かなかったんだよ。でも、表面的上は禁止しているから表だって使うわけにはいかない。だから外に取り付けるのではなく、内部に埋め込む方法をずっと模索してたんだ」

「じゃあ、まさか・・・・・」

「お前の身体の内部に阿頼耶識があるっていうのかよ!」

私の背中には阿頼耶識がついていないことは明白だ。
だからそう思うのは無理もない話。けど、事はそう簡単な問題ではない。

「いや、結局埋め込み型は身体への悪影響が強すぎて、三日と持たなかったらしい。ナノマシンによるホルモンバランスが崩れるのが原因と言われてる」

「は?じゃあ何の成功例なんだよ」

「成功例というか、明確にこれをしたらこうなる!っていう予測の元に出来たものではなかったんだよ。つまり、失敗の果てに生まれた偶然の産物」

「具体的にはどうなったんだ?」

話が小難しくなってきたことで認識が追いついていない。
オルガとビスケット、かろうじてクーデリアあたりかな。話しについて来れてるのは。次点でユージン。なるべく分かるように言葉を選んで説明する。

「さっき埋め込むって言ったけど、最初の内部型阿頼耶識システムというのは成長期の子供の血液中にナノマシン入れて定着せようとしていたんだ。その定着する実験を繰り返していたんだけど、結局定着することはなかった。だから血液に入れるのではなく、人体に有機デバイスを埋め込むことにしたんだ。けど、これも成功しなかった。なんとか耐えきった子たちもいたけど、外付けとは異なって脳に情報を伝達できないことがネックになったんだ。結局は碌な改善方法も見つからず、前と同じくホルモンバランスが崩れて三日ももたなかった。そんな風に実験がどん詰まりになったとき、ある被験体で埋め込んだ内部型阿頼耶識が身体の中で突如分解してしまったんだ。これは余りにも内部型阿頼耶識を小さくしすぎたことが原因と言われてる。異物となったナノマシンが身体へと広がり、尋常じゃないほどの体温の上昇から、これでは時期に死ぬと思われた。けど、何故か死ななかった。分解されたナノマシンが身体に定着していたんだ。今まで一度として成功しなかった定着が起こったのか誰も分からない。だが、その定着のお陰で生き延びたのが私だった」

淡々と話す私の話にその場にいる全員が絶句していた。
まるで他人事のように話す私もあれなんだけど。

「ナノマシンが身体に定着することで、君たちと同じく空間認識能力が拡張され、遠隔操作が可能となった。そして飛躍的に情報の処理が可能となったため、MSに乗ってなくても頭で認識出来ればそれで動かせるようになったんだ。私がMSを動かすための一つの端末になったとも言える。ただ、処理が早くなったとはいえ、私の頭が良くなったわけでもないし、情報は視覚的にしか受け取れない。君たちみたいに脳に直接伝達されるわけでもないから、しばらくは耐久試験が行われていたんだ。そして実践試験として、火星に送られた。名目上は火星支部長預りとして。だから、ほんとのこというとレヴィと一緒に戦うのは慣れてないんだ」

しかもほとんどが宇宙での実験だった。
それでも、他と比べようもない戦闘力はある。
だからこそ、たった1機でも対等に渡り合うことができた。最後はMS関係なかったけど。
想像以上に重い話に一様に暗い顔をする面々。ビスケットが押し殺すような声でいった。

「ギャラルホルンの闇・・・これはいよいよ衝突が避けられなくなってきたね」

「つまり、これから先ずっと狙われ続けるってことかよ・・・!」

「まぁそうともいえる」

だからあんまり話したくなかったんだけど、と付け加えると微妙な顔をされた。でも本当のことだし。

「私の存在が地球の経済圏に知られたら、組織の権威は地に落ちる。そして、今まで燻っていた火に燃え移れば、この世界は厄祭戦時に逆戻りとなる。奴らが恐れているのは私が世界の全面戦争の引き金になることだよ」

「マジかよ・・・・」

「最高機密扱いってわけか」

「そう言えば大丈夫?前に聞いたときは、気を失うほど発狂してたようだけど・・・」

ビスケットの言葉に昭弘を除く全員が固まった。
ああ、そう言えばあんときはヤバかった。衝動のまま皆殺しにするとこだったもんな。

「んー今は大丈夫」

「そ、そうなの?」

「うん。だってさっき発散してきたし」

私が昼間の戦闘のことを言っているのだと気付いたようで、またもや微妙な表情になる。

「つまり、あれぐらい暴れないと発散できないと?」

「うん。まぁあれは暴れすぎた自覚はあるけど」

「MSを5機もふっ飛ばせばな・・・」

生ぬるい視線を頂いてしまった。あれでもましな方だとは言わない方がいいんだろうな。
本音はそっと心の奥にしまって置こう。
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