鉄血夢 表ver

□血濡れの少女 10
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第10話 仲間

眩しさで目が覚めた。
宇宙にいたころと違うその光は眩しいだけではなかった。

そっと目を開ける。
しかし、その瞼が重い。
ゆっくりと開ければ、そこは自分のベットだった。
すぐそばにはクーデリアの寝息が聞こえる。
フミタンはすでに起きているようだった。
私が起きたことに気付いて濡れたタオルを渡してくれる。

「あり、がとう」

お礼を言うと掠れた声が出た。
タオルを目に当てながら昨日のことを思い出す。
昨日、なんかあったっけ・・・?

「・・・あ・・・・」

思い出した。

うーわーあー。

思い出さなきゃよかった・・・。

なんて醜態さらしてたんだ。

タオルを目に当てたままベットの上に丸くなる。

わたし、寂しかったんだ。
それを認めたくなくて必死に虚勢を張って。
挙句の果てに八つ当たりか。
子どもか!・・・・・いや。
子どもだったね。
オルガの言う通りに。
それも忘れるくらいに人との関わりを避けてた。

「三日月にも謝らないと」

図星だった。
あいつ何考えてるか分かんない癖に確信を付くようなことを言うから。

ついむきになった。
拒絶したのに向かってくる『人間』がいたなんて。
いつだって拒絶していたのは向こうだったのに。

『聞くよ。だってリノは俺たちの仲間でしょ』

『自分たちだけでなくて、抱きしめてもらえる人を、大切な人を・・・リノに見つけてほしいのですよ』

『しょーがねーな。仲間の頼みだ。聞いてやる』

昨日の3人の言葉が蘇る。

仲間、か。

仲間って、何?

ルドラたちにとって私はどういう存在だった?

私は、私は・・・・これからどうすればいいの?


目の腫れが引いたので、炊事場に向かう。
まだ起きるには少し早い時間帯だ。
それでもすでに起きだしているのがちらほらいるのが窓から見えた。

どうすればいいか分からないけど、とりあえず今はご飯を作ろう。
それが仕事だ。
今日は何を作ろうか。
じゃがいも料理でまだ作ってないのって・・・あ、ロスティでも作ろう。
じゃあスープは野菜いっぱいのミルクスープでいいかな。
朝だもんな。

じゃあ今日もじゃがいもをひたすら剥きますか。
あー上にチーズのせるのもありだな。

「あ、リノ。もう大丈夫なの?」

「ビスケット・・・。うん、ご迷惑おかけしました」

「そんなことないよ。僕は何もできなかったし、それに昨日僕たちを守ってくれたのはリノでしょ?ちゃんとお礼も言えてなかった。ありがとう」

「!・・・あいつ等が狙ってきたのは私だよ。その私にお礼を言うのは、間違ってるよ」

「リノ・・・」

ビスケットの声は戸惑いだった。

分かってる。

こんなことを言っても仕方ない。

なんか今日の私は変だ。

もやもやしてる。

原因が分かってる分やっかいだ。

ビスケットは私を気にしながらも手伝ってくれた。
それがなんだか申し訳なくて何も言えなくなってしまった。

昨日襲撃があったというのにここにいる人達はタフだった。

というか元気。

見てると精気が吸われそう。
昨日碌に後片付けもできなかったので、午前中は主にそれを行っていた。
手伝おうと思ったけど、邪魔になりそうで何もできなかった。

結局お昼近くなるまで私はレヴィと共にいた。レヴィに乗ってさえいれば誰にも話しかけられることもなかったから。

お昼はなんだか何も考えられなくて、簡単なもので済ませてしまった。
どんどん下がる気分に思考が追いつかない。
これからのことを考えなければならないのに。

食事を作ってその場から離れようとしたら手を掴まれた。
驚いて振り返ればそこには、

「三日月・・・・」

「浮かない顔してんね」

「・・・・・・」

「まぁいいや、この後暇でしょ?」

「え?」

「いくよ」

最初に会った時と変わらない表情で三日月は言った。
そしてそのまま、私が何か言う前に手を引っ張って勝手に歩きだしてしまう。
力ではこいつに敵わないのはすでに知っている。
けど、一体私を何処に連れていくと言うのか。
聞いたところで答えるというわけでもないか。
されるがままに引きずられていると、三日月は食堂で誰かを探しているようだった。

そういや、昨日も誰か探しているようだったっけ。
見つけたのか三日月は動きを止めた。
その視線の先を見れば、浮かない顔をしたクーデリアがいた。

うっ。
あんまり顔を合わせたくないから避けてたっていうのに。
私が忙しいそうにしとけば気を使ってくれてたのか、近づいては来なかった。
それをいいことに朝から逃げまくってたもんな。

まぁ、一番気をつけなければいけなかったのは私を捕まえているこいつだったけど。

恨みがましい目でその後ろ姿を見るが、気にしたそぶりもなく私を引きずって行く。

うーきまずい。

「・・・弱い人間ですね、私は」

クーデリアの声が聞こえた。
多分三日月には喧騒に紛れて聞こえなかっただろう。
それでも、私の耳には届いてしまった。

人は弱い。

クーデリアからその言葉を聞くとは思わなかった。
あの時、私に対して宣言した彼女はとても凛々しく強い女性だった。

「私は、彼らからあんな笑顔を奪ってしまうかもしれない。それが分かっているはずなのに・・・」

ああ、そうだ。

クーデリアだってずっと強くいられるわけじゃない。
悩んで迷ってそれでも貫くと決めた。
それでも弱ってしまう心がある。
それが、『人間』だから。

「また、難しい顔してるね」

「!三日月・・・その、」

「あのさ、昼飯食ったら出かけるんだけど、よかったらあんたも来ないか?」

「えっ?」

「リノも一緒にね」

クーデリアは引張られている私を見て目を丸くさせた。
しかし、次の瞬間にはほっとしたように笑った。

「良かった。朝からリノに会えませんでしたから・・・」

「あ、えっと・・・・ごめん、なさい」

「どうして謝るのですか?昨日の疲れは出ていませんか?それが気がかりだったのです」

「あ、うん。だい、じょうぶ」

「そうですか。なら良かった」

クーデリアの無垢な笑顔が辛い。
いや、嬉しいはずなんだけど。
昨日の醜態が思い起こされて、気まずすぎる。

くっそおお。
三日月め!
お前なんつータイミングで私を捕まえるんだよ!!

涼しい顔をしている三日月に内心で恨みごとを言いまくる。
ていうか私には何の説明もなかったんですけど!
いくぞとしか言われてないぞおい!

結局、クーデリアの前では動揺し過ぎて行かないという意志表示もできず、三日月によって半ば強引に連れて行かれるのだった。

あれ、私って病み上がりというかそんな感じだった気がするんだけど。

そうして連れてこられたのは見渡す限りのとうもろこし畑だった。
そういえば、空から一瞬だけ見ただけだった。
地上からみるとこんなに広いのか。
荷台に乗っているので風がすごく気持ちいい。

もやもやしてた心が晴れて行くような、涼やかな風だ。
ここにいる風たちも生き生きとしてる。
歌を歌うようなそんな風の音色に表情を緩ませる。

そんな私をクーデリアが微笑ましそうに見ていることに私は気付かなかった。

「あの、ここは?」

「桜ちゃんの畑」

「さくらちゃん?」

「うちのばあちゃんです」

荷台を降りようとしたら、そんな会話が聞こえてきた。
へービスケットのおばあちゃんの畑だったのか。
にしても、桜ちゃんて。
三日月お前呼び方もっと考えろよ。
友だちか!
いや、ビスケットのおばあちゃんだったらいいのか?

そんな風に考え事をしていたら、微妙な体勢で止まってしまっていた。

「降りれないの?」

「へっ?うわっ!」

いつの間に目の前にきていたのか三日月がドアップでいた。
吃驚して声を上げれば、意に介した風もなく三日月はひょいと私を持ち上げる。
おい、その持ち上げ方は普通小さい子にやるもんだ。

「相変わらず軽いね。もっと肉つけたら?」

「お前らと一緒にすんな!つかここきてまだ一週間も経ってないんだから当然だろっ」

「いや、リノが食べないのが悪いと思う」

「ぐっ・・・」

食べられれば苦労しないっつーの!とまでは言えなかった。
確かに体力と筋力をつけるには食べないと元も子もない。
淡々と確信をついてくるな。
ほんとーに腹立たしい。
というか、

「そろそろ、下ろしてくんない?」

「こんなに軽くて歩けるの?」

「お・ま・え・は〜どれだけ私を嘗めれば気が済むんだ!!」

そして、話を聞け!と叫んだが三日月は首を傾げただけだった。

「は?昨日リノを運んでたの俺だけど」

「それはどうもありがとうございましたー!つか昨日は昨日だろ、今日は平気だ!というか、これじゃ私を連れてきた意味ないだろっ」

「うん。連れてきたけど、戦力にならなそうだねリノは」

「この野郎・・・・」

温厚な方ではないと自覚している私。
そんな私と三日月が火花が飛び交いそうなくらい睨みあっているとようやく助け舟が出された。

「・・・・二人ともいつまでやってるの・・・・」

睨みあいから転じて、私を持ち上げたままの三日月とそこから降りようとじたばたする私がいた。
そんな奇妙な二人に何とも言えない視線が集中していた。
しかも地味にきつい体勢だ。脇の下を固定されてるのは。

「それで、何故私たちをこんなところに・・・?」

クーデリアがそう言った時だった。
スルーされたのが地味にきつい。
クーデリア、私を助けてはくれないのかい?とちょっと思ったのは内緒だ。

「みかづきー!みかづきー!」

こちらに向かって元気よく走ってくる少女の姿が見えた。
三角巾をつけた少女は三日月を見て嬉しそうにしている。
が、三日月が未だ持ち上げている私を見て眉を寄せた。
つか、いつまでこうしてればいいんだよ。

「ほら、人集まってきたし、そろそろ下ろして」

「あ、忘れてた」

この状態で忘れられるってどういうこったよ。
なんだそのまま荷台にでも乗せる気だったのかいこらあ。
ゆらあと私の背後に浮かぶ怒気に三日月は気付きもしない。
ようやく下ろしてもらえた私は久しぶりに感じる舗装された土の感触を確かめる。
岩石地帯ばっかりにいたから、こーゆーのは本当に久々だ。
なんか熱烈な視線を感じる気がするけど気のせいだと言うことにしておこう。
私は、何も、知らない。

「あら、アトラさん!アトラさんも来ていたの?」

「あ、はい。・・・え、とクーデリアさんも?」

クーデリアが三角巾の少女を親しげに呼ぶ。
呼ばれたアトラという少女は若干困惑顔だ。
クーデリアと私を交互に見ている。
これは自己紹介するべき、かな。
アトラの視線に気付いたクーデリアが簡単に私の紹介をしてくれた。

「アトラさんは会ってませんでしたね。彼女はリノ。今鉄華団の炊事係をしてくれているんですよ」

「えっ!?・・・そうなの?」

「うん。そうだね」

もっと困惑したようにアトラは三日月に聞く。それに応えるようにこくんと頷く三日月。
なんだかよく分からないので、クーデリアに助けを求めてみる。
すると、視線に気付いたクーデリアが微笑んで教えてくれた。

「リノが来る前はアトラさんが時々作りに来てくださってたそうです」

「あーなるほど。そういう繋がりなんだ」

なるほど。
たまにちゃんと料理ができる子が来てくれてたってわけか。
じゃああのアトラって子ここに入んないかな。
料理自体は嫌いじゃないんだけど、そろそろビスケットに手伝ってもらうのもあれだし、もう一人くらい炊事係が欲しいよね。
交代制にすれば、私もレヴィの整備に回れるし。
などと考えているとさっきよりも元気な甲高い声が聞こえてきた。

「おにいちゃーん!」

「みかづきもーおにいー」

「おーい」

「「わーい」」

「はははは」

ビスケットに群がる幼女が二人。
おお、ビスケットの妹さんかな。
双子かわゆし。
そう思ってまじまじと見てしまった。

「あ、クーデリアもいる」

「ほんとだー」

「お野菜切れるようになったー?」

「へっ!?あ、その・・・・へへ・・」

「あれ?他にも知らない人がいるー」

「誰誰ー?クーデリアの友だちー?」

おおう。
元気な双子に迫られるとちょっと対応に困る。
つか私の対人スキルって実はそんなに高くない。
キラキラとした目で見てくる双子にたじたじになっていると、クーデリアが察してくれたのか助け船を出してくれた。

「彼女はリノと言いまして、今鉄華団の炊事係をしてくれてるんですよ」

アトラと同じ説明をすれば、双子たちはお料理作るのー?今度一緒につくろー!などと嬉しそうにはしゃいでいる。

ううむ。

え、笑顔が引きつる・・・!

うろたえる私を尻目に双子は話し続ける。

「まぁまぁ。クッキーもクラッカも落ち着いて。リノが困ってるでしょ」

「「はーい」」
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