暗殺日記

□2日目
1ページ/1ページ



烏間先生の体育の授業で、今日はナイフ術をする事になった。
二人一組になり、烏間先生にナイフを当てられればポイント追加。
ついでに休憩も取れる。

番が終わった人がグラウンドの校舎側に集まり、他の人の練習を見学している。
私も一応終えてみんなと休憩をとっていたけれど、緊張で休まることがない。
普通なら、緊張することなんて一つもないけれど、今日はいつもと違う。
意を決して、私は用のある前原君の元まで行き、ジャージの裾を引っ張りこちらに気付かせた。


「何だよ、鈴音。どうした?」

「あ、あの、突然で悪いんだけど、頼みたい事があって···。」

「俺に頼みたい事?何だ?」

「えっと···」


男子と話す事はそれなりにあるが、頼み事をするとなると、何だか緊張する。
挙動不審な私に疑問を感じたのか、前原君は首を傾げてこっちを見る。


「言いにくいことなら、放課後にでも聞こうか?」

「ううん!むしろ、今の方が良いかも···休憩中で悪いんだけど、ナイフ術教えて欲しくて···。」

「ナイフ術?ホントに突然な頼み事だな。というか、珍しい···。」


昨日の片岡さんといい、どうも珍しがられるが、こればかりは自覚してるし仕方ない。
自分でも不慣れな事で珍しいと思ってるし、少し羞恥があるが、そうも言ってられない。
他の人はほとんど烏間先生たちの方を見ているので、見られていなかったのが、幸いだろうか。


「でも俺より、片岡や岡野に教えてもらった方が良いんじゃないか?男女の差とかもあるし。」

「私も思ったけど、片岡さんは番が最後の方だし、岡野さんは真似できない動きするから···。」

「あー···うん、そうだな···。」


そういうと分かったように、頷いてくれた。
私も初めは女子に頼もうと思ったが、上位者の二人は都合が悪い。
早めの方がいいだろうし、ジャージに着替えている今が適切かと思い、前原君に頼むことにした。


「嫌だったら、磯貝君に頼みに行ってみるけど···。」

「いや、俺が教えます!教えさせてください!それで礼は、今度放課後にお茶でもイテッ!!」

「そこの色男、鈴音をナンパすんなよー。」


前原君が壁になって見えなかったけど、足元に落ちてる対先生用ナイフを見る限り、中村さんが前原君に向けてナイフを投げた、ということだろうか。
いくら人間に無害だからと言って、投げるのはどうだろう。
ゴムみたいな素材だけど、やはり痛いらしく、当たったであろう後頭部を押さえている。

私と前原君は、元居たところから少し離れ、人の居ない場所へ移った。
私達以外にもグラウンドの至る所で、練習している人たちがいるから、そう目立つことはない。


「でもさ、何で俺なんだ?烏間先生に教わった方が、確実だろ?」

「確かにそうだけど···勉強でも、先生じゃなくて友達に教えてもらうと、また違った見え方するでしょ?そういうのも知りたいから···。」

「なるほど···何か、急に熱心になったな。昨日まで、他人事みたいに一歩引いてたのによ。」

「うん。でも私も、たまにはやる気出さないとかなって。ごめんね、急に頼んで迷惑かけて···。」

「そんな事ねーよ。むしろ、ちょっと嬉しかったし。」


笑みを浮かべながら、そう言ってくれた。
私も思わず、嬉しくなるような笑顔だった。
面倒ごとを頼まれて、嬉しいことなんてあるのだろうか。
今まで消極的だった人がでしゃばって、不快になるものではないのか。
人を引っ張るようなことも、輪の中に自分から入ることをあまりしなかった私には、イマイチ分からない。

今は考えていても仕方ないので、ここで一旦中断して、前原君にナイフ術を教えてもらった。
ナイフ術成績上位者だけあって、動きも素早く、距離を詰める方法も心得ていた。
真似をするのは難しかったけと、コツを教えてもらったので、練習を重ねて生かしていきたい。





.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ