暗殺日記

□3日目
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自分の席に座ってナイフを片手にし、それを眺めながらボンヤリとしていた。
自然と、昨日前原君に教えてもらったナイフ術の動きを思い出す。
あれで覚えたことはごく一部に過ぎなくて、遅れのある私は覚えることはまだまだある。
また誰かに教えてもらいに行きたいが、人は急に変われない。
以前の行いで、気軽に頼むことを躊躇ってしまう。


「どうしたんだい、悩める少女よ。」

「ひゃあ!!な、中村さん?!」

「ナイフなんか見て、暗殺の案でも出た?」

「そういうワケじゃないけど···。」


完全に意識が飛んでいたので、至近距離から突然話しかけてきた中村さんに、過剰に驚いてしまった。
深呼吸をしながら落ち着かせる私に対し、中村さんはかんらかんらと笑いながら、私の前の奥田さんの席に座る。


「違うとなると···まさか昨日、前原に何かされたとか?!よし、仕返しに行ってやろう!」

「それも違うから、やめてあげて!というか、何でそうなるの?!」

「分かってないねぇ。鈴音はあたし等が守らなきゃ、すぐ捕まるっしょ?」

「な、何に···?」


それにあえて答えないようにして、中村さんは笑い続けている。
いつもの事ながら、豪快な人だ。


「ところで、中村さんは私になにか用?」

「特に何も?ただ、ナイフ見つめてどうしたのかなーって。」

「あはは···何でもないよ。ちょっとボーッとしてただけだから。」

「ふーん、ならいいけど。」


中村さんは私の手にあったナイフを取ると、先端を引っ張って離す、とゴムのような素材で遊んでいる。
時々、ぼんやりしている私を驚かせては楽しんでいるが、悪い人ではないので何とも言えない。
むしろ、蚊帳の外にいる私を、仲間に入れてるれるための行動に思えるときもある。
まぁ普段の私や渚君への対応を見る限り、本人が楽しいからやっているのだろうけど。


「中村さんはさ、どんな風に暗殺の計画とか立ててるの?良かったら、参考にしたいんだけど···。」

「作戦?深く考えたことないかなぁ。ほとんど思いつきだし。」

「思いつきで、あんなに襲いかかってるんだ···。」

「だっていつかは殺さないとだし。3月までなら、いつでもいいんじゃん?だから気が向いた時に、バーンと。」

「バーンと、ですか。」


中村さんは暗殺に対して積極的、というか奇襲をよく掛けているので、参考になるものがあると思い聞いてみたが、相変わらずの自由人っぷりだった。
でもこの自由は私にないし、全く参考にならないわけではない。
しかし、真似できるかとなれば別の話。
今の私には確実に真似はできないが、ぜひ卒業までには私も会得してみたい。

3月まで、と言う言葉が重くのしかかる。
残されているようで、短い時間。
この短い時間で、私は思ってるように変わり、あの先生を殺せるのだろうか。
今更、思い付いたように動いてるだけで、人が変われるんだったら簡単な話だ。
一体私は何をしてきたのだろう。


「ほらほら、また意識どっか行ってるよ?」

「あ、ごめん···も、戻ったから、ナイフでつつかないで···。」

「えー、どうしよっかなー。」


そう言ってやめる気配もなく、クスクスと笑いながら、私の頬や肩など、柔らかいナイフの先端でつつき続ける。
痛くないからいいけど、何だかくすぐったい。
と、思ったら、急につつくのをやめて、その手を机の上に大人く置いた。
何かと思って顔をあげてみると、さっきとは変わって、中村さんは少し真面目な表情をしていた。


「鈴音ってさぁ···普段、何考えてんの?」

「何って···?」

「何もしてない時とか、ボンヤリしてるっていうより、考え込んでるように見えるんだよね。気の所為?」

「···気の所為、じゃないかも。」

「やっぱりね。悩み事でもあんの?」


あるかどうかを聞かれれば、悩みはない。
しかし、ある物事に関して深く考えてしまうのが、私の悪い癖だ。
危機感を感じないくせに、無駄に考え込んで、その挙句他力本願で何もしない。
でもみんなを見ていたら、少し変わろうと思えた。
このクラスは、それを叶えるのに十分な環境だ。


「あんま難しく考えない事だね。何かあっても、あたし等がいるからさ。いつでも頼んなよ。」

「···じゃあ早速、ひとつお願いしていい?」

「お、すぐにとは大胆ー。何々ー?」

「放課後、一緒に遊びに行きたいな。」

「そんなの、お安い御用!どうせなら、渚や杉野辺りも捕まえて連れ回そっか!」

「む、無理矢理はダメだからね?!!」


なんやかんやで、放課後は二人の他に茅野ちゃんも誘って5人で遊びに行った。
放課後に誰かと遊びに行くのは久々でとても楽しかったし、学校じゃない場所でのことだから、みんなの知らない一面も見れた気がした。
中村さんの自由な空気や大胆な行動も、放課後という開放された時間だと、また生き生きとしてるように見えた。





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