暗殺日記

□4日目
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今日はいつもより早く目が覚めてしまい、家に居てもやることがないので早々に家を出た。
かと言って、学校に行っても他に登校してる人も少ないだろうし、コンビニである程度時間を潰してから向かった。

それでもいつもより早く学校についたようで、旧校舎に向かう道のりでは誰とも会わなかった。
この様子では教室にも誰も居ないんだろう、と思いながら足を進めるが、校舎に入る前、校舎の脇から何か物音が聞こえた。
気になるし時間もあるので、その物音が聞こえる方へ向かってみた。


「杉野君···?朝早くから練習?」

「うわっ!鈴音?!ビックリさせんなよ···。」

「ごめん、ごめん。何してるのかなって思って。」

「見てのとおり。庭じゃスペース限られるから、たまに練習場所に使ってんだ。」


見に行ってみれば、杉野君が野球の練習用防護ネットに向けて投球練習をしていた。
球技大会の時から杉野君の野球に対する熱意は知ってたけど、こんなふうに練習しているところを見るのは初めてかもしれない。


「せっかくだから、練習してるところ、見学してもいい?」

「いいけど、危ないから少し離れてろよ?万が一ってこともあるし。」

「やった、ありがとう。」


言われたとおり、少し離れたところで大人しく見学することにした。
数球ストレートを投げた後に、杉野君の得意である変化球の練習に変えていた。
球技大会で見せてもらったが、改めて近く出ると迫力もある。


「相変わらず、すごいなー・・・どう投げればそうなるんだか···。」

「投げてみるか?教えてやるよ。」

「む、無理無理っ!野球自体、小学生の頃に少し遊びでやっただけだし···。」

「へぇ、やった事あるんだ。女子ってやらなそうなイメージあるからなー。」


それはただ単に、幼い私は何も考えずに遊んでいたからだと思う。
体格や体力に、さほどさもなかったし、結構楽しかった。
大きくなるに連れて、その差も生まれて男女の隔たりができるのだろう。
でも楽しそうだし、少し参加してみたいという気持ちもある。


「これも暗殺に役立てたら、良いんだけどな。」

「野球を?」

「おう。たとえば、ほら。」

「わっ···!」


こちらに向けて投げ渡されたのは、ひとつの野球ボール。
よく見ると、ボールの周りに何か小さな半球体がつけられている。
どうやら、対先生素材で出来ているらしく、確かに当たれば攻撃が与えられる。
なかなか柔軟な発想力だ。


「まぁ俺の球じゃ、遅くて当たりもしないんだけど。」

「でも良いと思うよ、こういう発想。私なら思い付かないし。それに今みたいに、自分の得意を伸ばしてるんだしね。」

「そ、そうか···?ありがとな。」


杉野君は照れくさそうに、頬を掻きながら笑って礼を言った。
それにつられて、思わず私も頬が緩んだ。

遠くから、微かに人の声が聞こえ始めてきた。
いつの間にか時間も経ち、クラスメイトたちが、ちらほら登校し始めたのだろうか。
その声を合図に、杉野君も荷物をまとめて、教室に向かう用意をした。


「俺達も教室に行こうぜ。」

「あ、ごめんね。結局邪魔しちゃって···。」

「気にすんなって。鈴音と二人で話す事なんて滅多にないし、楽しかったよ。」

「うーん、でも···そうだ、これ差し入れ!」


来る途中、コンビニで買った物の中から、間食用に買った菓子パンを出して、さっきの杉野君と同じように投げ渡した。
食べ物を投げるのは良くないが、ここは目を瞑ってほしい。
初めは邪魔しないように、と思っていたのに、いつの間にか話し込んでいてしまっていた。
食べ物でチャラ、とまではいかないが、せめてものお詫びだ。


「差し入れって···いいのか?」

「うん、受け取ってよ。」

「じゃあ遠慮なく。後で二人で食べようぜ。」

「あはは、せっかくあげたのに。」


受け取ってもらった後は、そのまま二人で教室に向かった。
私と杉野君が二人でいることは、ほとんどないので少し珍しがられたが、道中でたまたま会ったと言ったら、納得してもらえた。
授業の合間の休み時間に、私があげた菓子パンを二人で半分ずつ食べてたことも珍しがられた。





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