暗殺日記

□5日目
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フリーランニングということで、裏山で体育の授業をしている。
日頃の訓練で鍛えられている私達は、基礎的な動きは大方吸収できたので、木から木へ飛び移る練習を始めた。
初めのうちは危険だというので、そんなに高くない、幹のしっかりした木を使っての練習。

前を行く倉橋さんに続いて、私も飛び移る。
最初は怖かったし緊張もしたけど、何回かこなしていく内に慣れて、今ではわりと楽しい。
けど、その慣れて気を抜くこのくらいの時期に怪我をすることが多いから、気を抜かないように、と授業の前に烏間先生に言われている。
その言葉を肝に銘じ、次に移る木から倉橋さんが居なくなると、私も同じように飛び移った。
けれど、木の幹を掴んだ瞬間、左手に鋭い痛みを感じて思わず手を離し、そこから落ちてしまった。

私も驚いたし、それを見ていたクラスメイトも当然驚き、悲鳴も聞こえた。
そんなに高くない木で助かったが、落ちた衝撃で打った体も痛む。
痛む体を起こし周りを見て、状況を整理しようとしたが、私の周りには心配して駆け寄ってくれたクラスメイト達が集まっている。
心配してくれるのは嬉しいが、何だか大事になっている気がする。


「篠原さん、大丈夫か?!頭を打ったりは···。」

「平気です、烏間先生···何か、急に左手に···」

「わっ!鈴音、どーしたの!その手!」


痛みを感じた、と言おうとしたが、左の手のひらを見てみると、ざっくり切れて出血していて、思わず言葉も切れた。
それを見たクラスメイトが、二度目の悲鳴を上げる。
どうやら木の幹が逆剥けしていたらしく、運悪く私はそれで手を切ってしまったようだ。
そうと分かると、痛みが増してくる気がする。


「とにかく、これは手当てが必要だな···仕方ない。一旦校舎に戻って···」

「戻らなくても大丈夫ですよ。念の為に、救急箱を持ってきているので。」

「準備がいいな、竹林君。助かった。」

「手当ては僕がやっておきますので、先生は授業の続きを。」


竹林君が救急箱を片手に烏間先生に言う。
そういえば、フリーランニングが始まった頃に、いざと言う時の為に持っていこう、と磯貝君が決めたの思い出した。
まさか本当に使う時、しかも自分が使う時が来るとは思わなかった。
竹林君は私の手をとり、傷を見る。


「まずは傷口を洗った方がいいね。体の至る所にも、擦り傷があるようだし。」

「ミネラルウォーターで良けりゃ、持ってきてるぜ。」

「私のもあげるよー。」

「みんな、ありがとー···後でお礼するね。」


木村君や矢田さんから水をもらって、私と竹林君はみんなの練習の邪魔にならないように場所を移動する。
そこでまた私の傷を見て、さっきもらった水で傷口を洗う。
血が流されて傷口が現れたが、思っていたよりパックリと切れていて、思わず目を背けたくなる。


「とりあえず、止血しないと。これで、直接圧迫で止血を。」

「あ、うん、了解。」

「傷は湿潤療法で手当てをしておこう。最近では消毒するより、そっちの方がいいって聞くからね。」

「何言ってるのか、さっぱりなんですが···。」


渡されたガーゼで、言われたとおり患部を押さえて止血をする。
その横で救急箱の中をあさりながら竹林君は言うが、さすがとしか言えない。
医療知識には感心したが、若干理解できなかった。
難しいことを考えるのはやめて、竹林君の手当てを素直に見ることにした。


「消毒液を使わない手当てさ。傷に染みることがないから、強ばる必要はないよ。」

「そうなの?そんな方法があるんだ。」

「傷の観察のためにも、一日一回は創傷被覆材を交換した方がいい。何枚か渡しておくけど、傷に異常が出たらすぐに言ってくれ。」

「はい、分かりました!」


気が付けば思わず敬語になってた。
湿潤療法は比較的早く治り、傷も残りにくいらしい。
その療法で傷を覆うのが、創傷被覆材というもの、だと教わった。
体中の擦り傷も手当てをしてもらい、最後に左手に包帯を巻いてもらった。


「少なくとも、2,3日は左手を動かさないように。烏間先生には後で言って、訓練内容を変えてもらった方がいいね。」

「じゃあ、次の休み時間に言いに行くよ。何から何まで、ありがとね。」

「いや、これくらい当然の事さ。」

「何かお礼···昨日、コンビニでアニメのファイルもらったんだけど、いる?」

「もしかして、赤髪ツインテールのキャラがいるやつかい?」

「そうそう。あと青髪メガネっ子とかいるやつ。」


絵が可愛かったので、捨てようにも勿体なくて捨てられなかった、コンビニのコラボキャンペーン商品のファイルだ。
竹林君の登下校中にそれをやってるコンビニがないらしく、むしろそれがいいらしい。
授業を中断してまで手当してくれたのに、お礼がそれでいいのだろうか。
矢田さん達へのお礼にお菓子でも買って、それも一緒に渡すとしよう。





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