暗殺日記

□15日目
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「まさか、あの時の企画が本当に決行されるとは···。」

「やるに越したことはないよ。早く指定場所で、殺せんせーを待たないと。」

「ちょっと待って、今行くー。」


数日前に思い付きから始まった暗殺。
作戦内容は簡単で、私が殺せんせーに注意を向けている間に闇討ち、という単純なものだ。
私一人では出来る気がしないので、原さんに協力してもらい、二人で作ったお菓子で気を惹かせる事になった。
この手の暗殺は今まで何度もやってきているため、成功するとはあまり思えないが、原さんのいう通り、やるに越したことはない。


「なんか緊張してきた···絶対変な動きするよー···。」

「大丈夫だって。私達は、このクッキーを食べさせれば良いだけなんだから。」

「う、うん···サポートお願い!」

「もちろん。殺せなくても、ダメージは与えようね。」


そしてその場です原さんと最終の打ち合わせをする。
気を落ち着かせるために深呼吸したり、原さんの独特の加護を受けたりした。
数分すると、廊下の向こう側から足音というのだろうか、殺せんせー独自の触手の音が聞こえてくる。
緊張から頬が引き攣ったが、何とか緩めて自然な表情に戻す。


「おや、篠原さんと原さん。何やら美味しそうな匂いと共に、盛り上がってますね。」

「さすが先生、食べ物の反応は早いですね···。」

「鈴音の作ったクッキーの試食。この前、作り方教えてほしいって言うから、教えたの。」

「あ、殺せんせーも良かったら、味見しませんか?いろんな人の意見聞きたいし。」

「それでは遠慮なく、一つ頂くとしましょう。」


そう言って、私の手元にあるクッキーに触手を伸ばしてくる。
原さんとアイコンタクトを取りながら、先生がクッキーを口に入れるのを今かと待つ。
こちらの緊張はいざ知れず、先生は疑うことなく、自然な流れですぐに口に入れた。


「なるほど、中にチョコを挟んだクッキーサンドで···にゅやぁぁああ?!口の中がぁああ!」

「今だ、かかれー!!」

「ちょっ!皆さん、いつの間に?!」


クッキー自体は普通だが、それに挟んであるチョコには対先生物質を粉末にしたものが入れてある。
消化液を出していなかった殺せんせーの口の中は溶けたのか、すごい慌てようだった。
怯んだその隙に、隠れていたみんながナイフや銃を片手に襲いかかる。
旧校舎の中だから、いつ何処に生徒がいても不審ではないので、殺せんせーも油断していたようだ。


「助けてー!!」

「追うぞ!校舎内から逃がすな!!」



「···行っちゃったね。」

「とりあえず、戻ってくるの待とっか。それにしても、上手くいったね。」

「うん、先生も油断してたみたいだし。」


原さんが笑顔で言うものだから、私も安心して緊張の糸が切れた。
壁に寄りかかりながら、遠ざかる先生の叫び声に安堵する。
私でもみんなの役に立てたという喜びと、今回の作戦で私の役目をしっかり果たせた事に嬉しくて、自然と頬が緩む。
成功していなくても、こんなに達成感があるものだったのか。


「鈴音ー、すっごいやり遂げた顔してるね。まだ殺せたが分からないのに。」

「確かにそうだけど···なんか、すごく安心しちゃって···皆、いつもこんな気持ちだったのかな。」

「うーん、みんなと協力するから、尚更かもね。沖縄での暗殺の時、そう思わなかった?」

「あの時は先生の完全防御とか、ウイルスとかで、それどころじゃなかったから···。」


あの時は一瞬、成功したと思って胸が高鳴った気もする。
でもその後に起こった立て続けのトラブルで、その思いもすぐに消え去ったのだろう。
こういう気持ちになれるのなら、暗殺するのも悪くないな、なんて思ってしまった私は、感覚がズレてしまっているのだろう。


「そんなの皆同じだし、あの殺意は殺せんせー相手だから持てるんじゃないかな。」

「···そうだね。私、頑張るよ。訓練も、暗殺自体も。」


そう言うと、原さんは私に笑顔を向けながら、みんなの様子を見に行こう、と提案してくれた。
私はそれに首を立てに振り、みんなが去っていった方に向かっていくと、疲れきった様子でその場にしゃがみこんだり、壁に手を添えて息を整えている皆がいた。
殺せんせーがいないところを見ると、どうやら逃げられたらしい。
次の暗殺は、どんな作戦でなら成功するだろう、なんて考えたのは、私だけの秘密だ。





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