暗殺日記

□16日目
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お昼ご飯を頂いた後、一緒に食べていた不破さんがスケッチブックを片手に、机を挟んで私の前で仁王立ちしている。
何故か自信満々というだろうか、すごくいい笑顔をしている。
つられて私も笑顔になるが、ぎこちない引き攣った笑顔だろう。


「えー···不破さん、何が始まるのでしょうか?」

「これから殺せんせーの、日常生活に迫りたいと思います!」

「突然に?!」

「どうせなら、尾行とかしたかったんだけど、さすがにそれは不可能だった···。」

「うん、だろうね。」


スケッチブックの表紙を捲り、そこに書かれたモノを見てみれば、『密着!殺せんせーの日常!』という文字が。
あの日常に密着出来る策があるのだろうか。


「プレゼンは私、情報提供は律でお送りします。そして、視聴者は鈴音!」

「あ、なるほど···でも日常って、いくら殺せんせー相手だとしても、厚かましいんじゃない?」

「殺せんせーは私達のプライベートを取り上げてるのに、一方的なのはフェアじゃないからね。」

「確かにそうだけど···バレたらどうするの?怒られるんじゃない?」

「さっきの事をプライバシーの侵害として、生徒への危害と言って国に訴える!」

「なんて逞しいんだろう···。」


すごく堂々と言うものだから、道理にかなってるように聞こえてしまった。
実際、かなっていると言えばかなっているし、不破さんの言う事ももっともかもしれない。
しかし殺せんせーの日常なんて見れる機会ないし、良いチャンスだ。
今は大人しく、話を聞くのが一番だろう。
私が聞く体制になれば、不破さんはスケッチブックを一枚捲り、本題の書かれたページを出す。


「今回は、一昨日の殺せんせーの1日をまとめてみました。まずは朝、日本時間7時に起床。場所はモンゴル。」

「一番初めから予想外なんですけど。」

「起床後にラジオ体操第一と第二、幻の第三までをすると、日本に向けて出発。途中で韓国に立ち寄ると、朝食を購入。」

「なんか、もういい気がしてきた···。」

「学校で午前の授業を終わらせると、お昼休みに昼食を買いにフィリピンへ。放課後は···」


私の止めは全く聞いてもらえず、不破さんはノってきたらしく、どんどん解説を進めていく。
最初から超生物だからこそできる行動を取られ、戦意を喪失。
私は仕方なく、話も一応聞きながら終わるのを待つ。
スケッチブックを捲りながら説明をしていき、最後は香港の百万ドルの夜景を見ながら就寝、と説明したところで、一通り仕事を終えた不破さんが一息ついた。


「この生活を見て、学んだ内容・・・それは、何でもありだという事!」

「いや、それ初めて会った時からだよね?!すごく今更な意見だよ?!」

「こんなのじゃ、逆にプライベートなんて意味を持たないよ···。」


マッハ20の標的は世界各国を回っている。
正直なところ、全く参考にはならなかったが、それでも最後までコレを作ろうと思った意気込みに関心だ。
わざわざスケッチブックにまとめて、しかも所々に絵まで描いて手が込んでいる。


「わざわざこんなの作らなくても、口頭でよかったんじゃ···。」

「ホントはホワイトボードとかの方が良かったけど、事前に用意できないし、大きくて不便だからスケッチブックにしたんだよ?」

「人によって異なる常識···!」


不破さんの成果はしばらくの間、教室の一角に保存されることになった。





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