暗殺日記
□17日目
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「わー・・・さすが菅谷君、上手いね。」
「まぁこのくらいなら、すぐ仕上げられるぜ。ついでに渚も描いとくか。」
「うん。描いて、描いてー。」
私の斜め前の席で菅谷君が、また何か描いてると思い覗いてみると、ノートの端にクラスメイトの似顔絵が描かれていた。
私がそれに食いついて、私も描いてもらうと、そのまま茅野ちゃんや片岡さんなど、どんどん人数が増えていく。
やはり菅谷君の絵は、とても上手い。
絵だけでなく、美術関係には強い菅谷君は、特殊メイクなど出来たはずだ。
「それ使って、殺せんせー襲えないの?」
「前やったけど、殺せんせーを騙すにはまだ早かったなぁ···。匂いとかでバレるみたいだ。」
「匂いかー···じゃあ、他人のフリはできないね。」
相変わらず、鼻のいい先生だ。
私達の匂いは覚えているから、他人の振りをしてもすぐにバレる。
せっかく暗殺にも活かせそうな特技なのだから、何か良い案はないのだろうか。
こういう時は発想を柔軟にして、あえて逆に考えてみるといいかもしれない。
他人になる必要もなく、学校を利用したもので、尚且つ先生を騙せる特殊メイク。
「···あ、この前テレビで見た、アレとか···。」
「どんなのだ?」
「傷メイクっていうんだっけ?あれならどうかな?」
「なるほどな···騙し撃ちじゃなくて、驚いて動きを鈍らせたところを狙って、か。」
上手くいくかは分からないが、物は試しと、菅谷君はカバンから何やら道具を取り出す。
多分、特殊メイクに使うシリコンやら塗料やら、なのだろう。
私は左腕を差し出して、そこに切り傷を作ってもらう。
設定としては、何処か角に引っ掻いた、という事にしておく。
赤の塗料で血を表現すると、その周りにシリコンを、そして肌の色と馴染ましていく。
迷いなく進めていかれるその手際に、唯々見とれるだけだ。
「すっごいリアルー···メイクとは思えないね。」
「まぁ、このくらいなら。俺も傷メイクは興味あったしな。」
「うんうん、さすがだねぇ。」
そうして完成したメイクは、見ただけではメイクとは思えない仕上がりだ。
というか、中学生が作ったものとは思えない。
「あとは血糊でも使って、殺せんせーのところにでも」
「あれ、菅谷と鈴音、二人で何して···て、鈴音!どうしたその腕!」
「どうしたの、杉野···だ、大丈夫?!」
「あー···うん、なんかゴメン。」
教室に戻ってきた杉野君と渚君にメイクを見られたが、作る過程を見てなければ本物だと思うだろう。
一応説明をして平気なことを伝えるが、よくよく考えれば殺せんせー以外にも、みんな騙される。
殺せんせーの元に辿り着くまでに、同じ騒ぎが起こりそうだ。
「そういや移動の事、考えてなかったな。」
「先にみんなに知らせてなかったねー···先生を驚かすのは、また後にしよっか。」
「そうするか。それまでに、腕磨いといてやるよ。」
「これ以上にリアルな作品?!」
菅谷君の底知れない美術才能に、ただ期待するしかない。
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