暗殺日記

□26日目
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「ほら、そこそこ!タヌキの親子!」

「ホントだ、可愛いね。」

「裏山って結構野生動物多いんだよー。」


楽しそうにそう話す倉橋さんも可愛い。
校庭から獣道を少し行ったところで、タヌキの親子を見つけた倉橋さんが、意気揚々に見に行こうと誘ってきてくれた。
言ってみれば二匹の親と、それより一回り小さい子ども三匹がそこにいた。

倉橋さんの言う通り、この山は自然が多いだけあって、野生動物も多い。
もちろん野生なので警戒心が強い。
餌付けも良くないので、遠くからこっそりと眺めるようにしている。
餌付けについては、殺せんせーと倉橋さんに、さんざん駄目だと言い聞かされた。


「もう少し奥に行くと、ハクビシンやイタチなんかもいるよ。」

「訓練中はあんまり見かけないけど、そんなにいるんだ···。」

「そりゃもう、わんさかと。ここも広いから、色んなところに居るんだよね。」


私が見かけるとしたら、野鳥や小動物が主だ。
倉橋さんは動物好きだし、そういうのも見つけるのも得意なのだろうか。


「でも、あんまり大きい動物は見かけないよね。そういうのはいないのかな。」

「いるよー?イノシシとか見た事あるもん。」

「え、いるの?!結構危なくない···?」

「大丈夫だよ。校内に烏間先生がいるんだし、むざむざ出てこないからね。」

「···うん、そっかー···。」


とても説得力のある言葉だ。
あの先生はいつの間に、この山の生態系のトップになっていたのだろうか。
動物達も本能的に、何かを察しているのだろう。

さっきの話を聞いて、というわけではないが、あまり散策をせず帰ろうと、来た道を戻ろうとしたら、見慣れた黄色いタコが目の前にいた。


「おや、二人共。野生動物の観察ですか?」

「先生···気配もなく近寄るの、やめてください···。」

「この時期は野生動物が多く出没するので、小さな動物でも気を付けましょう。」


そう言うと、殺せんせーはふと視線を上げた。
私達もつられて視線を上げるとそこにはリスが一匹いた。
殺せんせーや私達の姿を見ても、あまり警戒していないのか、こちらの様子を伺うようにしつつ、わりとすぐ傍まで来ている。


「あ、ニホンリスだ!こんなところにもいるんだね。」

「絶滅の恐れもあると言われてますが、まだよく見かけることが出来ます。特徴はやはり、この目の周りの白い縁取り。」

「冬の耳周りの毛も特徴的で、可愛いよねー。」

「つ、ついていけない···。」


倉橋さんは動物に強いし、殺せんせーは元々知識が多いしで、私にはついていけない。
つまりはあのリスについてなのだろう。
しかしただ可愛いとしか認識してない私には、まともに聞いてなかったのでよく分からない。
殺せんせーはその辺から木の実を手に取ると、リスの元へ近付けて渡そうとしている。


「今の季節は冬眠に向けて、蓄えてますからねぇ···迂闊に食べ物を持って山には、···こうなりますよ!」

「先生···痛くないの?」

「リスって秋になると気性が荒くなるから、手を出しちゃダメだよ···。」


リスは殺せんせーから木の実を受取り、とはならず、そのまま殺せんせーの手へ噛み付いた。
野生動物には気をつけよう、と深く痛感し、結果として先生が体を張った課外授業となった。

校舎に戻る途道中では、殺せんせーの背中が小さく項垂れているように見えた。
リスに噛まれた事が、そんなにショックだったのだろうか。
メンタルの弱さがよく分かった。





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