暗殺日記

□27日目
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休み時間、やる事もなく教室で大人しく、時が過ぎるのを待っていた。
次の授業は国語だったな、などぼんやりと考えていたら、矢田さんが教室に戻ってくるのが見えた。
少し機嫌が良さそうに見えて、それが気になったので声をかけてみた。


「矢田さん、なんか機嫌いいね?どうしたの?」

「えへへー、ちょっと殺せんせーのところへね。」

「暗殺がいいところまで行った、とか?」

「暗殺自体は失敗したんだけど、話術を褒められちゃった。」

「あぁ、矢田さんはそういうの得意だもんね。」


矢田さんは交渉術や接待術が得意だし、得意としているところを褒められれば、誰でも嬉しいだろう。
さすがだな、とは思いつつも、どんな話術を使ったのか気になり、さらに聞いてみた。
知り合いだと、小細工をした話を持ち込むのは難しい気がするし、ましてや相手は殺せんせーだ。


「まずは普通の話から入って、それを発展させるかなぁ。例えば先生なら、授業の質問して後に、分かり易いって褒めたりね。」

「なるほど。一旦間を置いて、て事か···。」

「それに殺せんせーは煽てられるのに弱いから、これが結構効くんだ。」

「一回乗ってくれれば、あとは簡単に話が進みそうだね。」

「うん、確かにその通りだったよ···。」


確かに先生はどこか単純なところがあるから、わりと効くのかもしれない。
煽てにも弱いし、私たち生徒にも弱いところがある。

どうやら矢田さんは、気が緩んだところを狙って暗殺しようとしたが、失敗。
しかし話の持っていき方が上達した、と褒めてもらったらしい。


「同じ授業受けてるはずなんだけど、私はどうも上手くいかないんだよね。」

「鈴音は素直だから···小細工とかすると、なんか分かりやすいって言うか···。」

「だ、台本さえ作っていただければ、なんとか···!」

「そういえば、この前の暗殺もそれで乗り切ってたもんね。」


演技力があるわけではないが、自分で話を持っていくよりも、決められた演技をする方が、私はうまくいく。
矢田さんみたいな話術とはまた異なるが、演技力も必要だと思う。
そういうところを考えれば、矢田さんもすごいし、それを教えるビッチ先生もすごい人だ。
自然と話を持っていくのは、難しくないのだろうか。


「褒められて嫌な人はいないし、まずは褒めて気を許させるところからだよ。そしたらその隙に、すかさず入り込むの。」

「分かるような、分からないような···その褒めるって言うのも、難しくない?」

「基本、外見を褒めるのは禁忌だよ。趣味や特技とかを褒めてあげるのが、一番かな。」

「何その話術。矢田さん、ホステスにでもなるの?きっとNo.1になれるよ。」

「ならないよ···普通に社会に出るよ···。」


七割本気だが冗談は置いといて、そういう矢田さんも自分の得意なところを伸ばして、それを巧みに使っている。
こういう人が、将来どこでも上手くやっていけるのだろう。

そしてそんな特技を持った人は、このクラスに何人もいる。
きっとこのクラスだったから見つけることが出来て、伸ばす事が出来たのだろう。





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