暗殺日記

□28日目
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「はい、渚君。日誌取ってきたよ。」

「あ、ありがとう、鈴音。」

「いいって、ついでだったし。」


本来、日誌を職員室に取りに行くのは日直であり、今日の日直は渚君だ。
けれど今日は、私が職員室に用があり、ついでに取ってきた。

ただそれだけ、のはずだった。
渚君が日誌を開くと、そのには一枚のメモが挟んであり、それを読むと苦笑を浮かべてた。
何が書いてあるのか気になり、自然とメモを覗き込んだ。


「えーと···【HRの前に、教材を運ぶのを手伝ってください。】」

「···まぁこのくらいの仕事を任されるのは、全然いいけど···。」

「横のタコの絵が、妙に腹立たしいね···。」


一枚の紙切れにその一言と、手を合わせて懇願するタコの絵。
殺せんせーのタコの絵はいつもの事だが、言葉で表せない腹立たしい表情をしている。
渚君は椅子から立ち上がり、メモをポケットに入れると廊下の方へ向かった。


「じゃあ、僕はちょっと行ってくるね。」

「あ、私も手伝う。」

「日誌も取ってきてもらっちゃったし、悪いよ。」

「別にいいって。メモ見ちゃったし、放置ってのも気分悪いかさ。はい、行こー。」


渚君の断る声は聞かず、肩に手を置きそのまま押す様に教室を出る。
手を離して横を歩き始めた数秒後、渚君が突然私に問いかけてきた。


「鈴音はさ、最近どう?」

「どうって、暗殺?そりゃ、成功はしないかなぁ···。」

「それもあるけど、クラスの皆とどうかなって。」

「えっ、と···?」


唐突な質問の意図が分からず、私は呆気に取られた。
渚君はその反応に、私が解していないと気付いたのか、言葉を補おうとしている。


「何だか最近、すごく楽しそうに見えるから、どうかなーって···。」

「···そう、かな?」

「うん。前よりも皆の輪に入ってるっていうか···イキイキしてるなって思って。」

「それは···きっと、皆のおかげかな。」


この一ヶ月を振り返れば、きっかけを作ってくれたのは皆だ。
暗殺者として生徒として、そして標的として先生として、このクラスを作り上げた皆のおかげだろう。
気付くのが遅かった私の事も受け入れてくれて、暗殺者としてクラスメイトとして仲間に入れてくれた。
もしかしたら、昔から受け入れてくれていて、それに私が気付かなかったのかも知れない。
昔感じていた劣等感は、いつの間にか消えていた。


「このE組にいれて、良かったって思う。他から見たら、ありえないクラスなんだろうけどね。」

「だからこそ、このE組は僕らにとって、大きな存在なんじゃないかな。殺せんせーが居て、皆が居て、だから今の僕達が居る。」

「···そのとおりだね。だから、私達がやる事は二つ。一つは、皆で卒業。もう一つは···」


続きを言う前に察した渚君は、懐から銃を取り出す。
それに合わせて私も銃を取り出すと、目を合わせて二人で笑った。

すぐそこは職員室。
私達は銃を構え、渚君が扉に手をかける。


「おはようございます、殺せんせー。」

「おはようございます。それでは早速、準備室に行きましょう。」


これが私達の、掛け替えのないクラスだ。





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